2006年 7月9日 (日) 

       

■  〈胡堂の父からの手紙〉67 八重嶋勲 上方見物も断念するしかなかろう 

 ■107巻紙 明治36年3月15日付
  宛 東京市麹町区飯田町四丁目三十一
    番日松舘内   
  発 紫波郡彦部村
前略愈々壮健勉学罷在候由大慶ニ候、当方無異消光罷在候ニ付安心可相成候、
徴兵検査モ切迫致候、四月上旬ニ者必ラス資格アル学校ニ入学可致候、新聞紙ニ見ルニ明治学院生徒募集四月九日入学試験、早稲田中学ノ募集四月三日迄方々アル様見受候、後悔セサル様豫メ準備可致候、
次ニ上坂之義(儀)三人之誘導セラルゝ向モ有之此度上京致兼ヌルニ於テハ□□上方地方ヲ見物スル事断念スルノ外ナカルベシト思考候、実ニ出発スル事ニ致度候得共一歩ヲ退キ考フル時ハ前年之不作ノメ数多借金利足(息)払モ不致居ルニ如之上坂費用五六十円モ費消スル時ハ或ハ学資ノ送金モ不出来様ニ相成ル事ハ眼前ナルカ故ニ未タ決シ兼居候、尚ホ四月中旬迄金策途等モ有之ニ於テハ出発ト決ル事も有之哉モ難斗候得共方今ニ於テハ見合事ト断念致候、
折角申越之衣類羽織染返当時盛岡葺手町江戸屋ヘ四十五銭ニテ頼ミ置候、本日頃迄ニ出来之筈袷セハ古物自分昨年之春仕立少シク縞荒ニテ着用不致(加え)差送ル事ト致居候、羽織ノ出来ル迄ニ袴モ買求当月廿日頃迄送付スル事可致候、
古木ニ貸品合羽上着壱箇丈岩動迄届居候由其他ハ誰レニ貸置タルヤ詳細報導スベシ、
岩動氏モ三日斗前ニ盛岡停車場ヨリ日詰迄仝車語ノミノ見舞セシニ稍ヤ全癒之由ニ候、大川の件モ罰金拾五円ニテ相済ミタル由案外軽ク払済候、右用事迄、余者後便ト申残ス、早々
  三月十五日
              野村長四郎
   野村長一殿
中野ト日下方ヘ一回位ハ音信スベシ
 
  【解説】「前略いよいよ壮健で勉学しているとのこと大慶。当方も変わったことがなく日を暮らしているので安心せよ。

  徴兵検査も迫ってきている。4月上旬には必ず資格ある学校に入学すること。新聞によれば明治学院生徒募集が4月9日入学試験。早稲田中学の募集は4月3日までと方々あるように見受けられる。後悔しないように予め準備しておくようにせよ。

  次に上阪のこと3人の誘導する向きもあり、このたび上京し兼ねるが、上方地方見物も断念するしかないだろうと思っている。実は出かけることにしていたが、一歩を退いて考えるに、前年不作のため多額の借金をし利息払いもしていないのに、上阪費用5、60円も使えば、学資の送金もできなくなることが目に見えているのでいまだ決めかねている。なお4月中旬までの金策もあるので出かけるのは難しい。今は見合わせるしかないと断念している。

  折角申し越しの衣類、羽織染め返し、今盛岡葺手町の江戸屋へ45銭で頼んで置いた。本日頃までに出来るはず。袷は古物で自分が昨年の春仕立てたが、少し縞が荒く着用しないのでそれを送ることとする。

  古木に貸している品として合羽上着一つだけ岩動まで届けてきたということだが、その他は誰に貸したのであるか詳細を知らせよ。

  岩動氏も3日ばかり前に盛岡停車場より日詰までの汽車で一緒だったので、言葉だけでお見舞いしてきたが、やや全癒したとのことである。O・Gの件も罰金15円で済んだということで、案外軽く終わったようである。右用事まで。余は後便と申し残す。早々

  (追伸)中野と日下方へ1回位は手紙を書くべし。」という内容。
 
  また徴兵検査の時期が迫ってきたので4月上旬には必ず資格のある学校に入り証明書を得るように勧めている。上方方面の旅行に出かける予定であったが、昨年の不作により家政の逼迫(ひっぱく)、そして長一への学費の金策のため出かけるのを断念せざるをいえない。古木巌への貸し品は合羽の上着だけか、あとの品物は誰に貸したのか詳細に知らせよ、と、しつこく迫っているが、長一は答えたものかどうか分からない。長一の最も親しい友、岩動孝久(俳号露子)の肺症がやや全快している様子を伝えているので、長一はきっと安心したことであろう。



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