つきしろに
うかびいでたる薄霧を
むしやくしやしつゝ
過ぎ行きにけり。
〔現代語訳〕月の出の白んだ空に浮かび出た薄霧をむしゃくしゃしながら、通って行ったのです。
〔評釈〕「歌稿〔B〕」の「大正五年十月より」六十三首中の十六首目の「381歌」。『校友会会報』第三十三号の「雲低き峠等」(銀縞)十四首の四首めに「弦月のそつと吐きたる、薄霧を、むしやくしや、しつゝ過ぎ行きにけり。」の形で発表され、「歌稿〔A〕」でも、句読点を外して同じ形。(『校友会会報』と「歌稿〔A〕」との関係は、掲載順序一つをとっても、賢治歌稿の整理の仕方を示す重要な論点だが、ここでは詳細にわたっている余裕がない。)「つきしろ(月白・月代)」は、月の出の空が白むことで、季語は「秋」。「うかびいでたる」は、話者の認識であるが、「霧」の通常の様からは少しズレていて、そこに話者の感覚もうかがえる。結句「にけり」が「回想」である点も見逃せない。
(岩手大学教授)
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