にせものの
脂肪をもてるその男
青ぞらの下をそゞろあるけり
〔現代語訳〕偽物の脂肪をもっているその男が、青空の下を何となく歩いております。
〔評釈〕「歌稿〔B〕」の「大正五年十月より」六十三首中の十七首目の「382歌」。「歌稿〔A〕」では、第二句以下は、「眞鍮(ちゅう)いろの脂肪酸/かゝるあかるき空にすむかな。」となっていて、「歌稿〔B〕」でも、そこから出発している。他に、「眞鍮の脂肪(あぶら)をもてる高空」、「眞鍮のあぶらと云へる感触の」の書き込みがあり、もう一つの作品へと発展する可能性も示唆している。「にせものの/脂肪をもてるその男」(「その」は短歌定型からの要請)が、話者自身であるか、話者が観察している他の人物であるかは、解釈の分かれるところで両方が可能。いずれにしろ、人物を「脂肪」で示して見せたところ(いわゆる換喩(ゆ)法に相当し、中村分類では、結合・文脈比喩)が作品の核心である。
(岩手大学教授)
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