あたしかい? そう、この海で生まれて、もう何年になるかね。…いやいや、ヌシなんてほどのもんじゃあないよ、ただの蛸(たこ)さ。うん、日がな一日、こうして波間にぽっかり浮かんでいると、いろいろなものが見えるよ。このあたりもやっと梅雨が明けるっていうんで、人が出てきてね。…ここんとこ、ほら、見えるかい? 砂浜にいるだろ、五、六歳かね、うん、男の子だよ、ね、い〜い色に灼(や)けてるだろ? カタチだけは勇ましいんだ、ゴーグルにシュノーケル、足ひれ。ところがさ、どうもフンギリがつけられないんだな。見たことのない海の中、のぞいてみたいという気持ちと、知らない世界に足を踏み入れることへの怖さなんだろうな。…で、あれさ。波打ち際で、立ちんぼう。
どれ、ちょっと背中を押してやろうか。いやなに、きっかけをね。…
少年が拾った青い貝殻は、深く澄み切った海へのパスポート。勇気を出して、波に身体を預ければ、どこまでも続く青の世界。数え切れないほどの、ふしぎで愉快な仲間たち。
当代一の自然派絵師が描く、夏の日、少年と海の邂逅(かいこう)です。
【今週の絵本】『青いヤドカリ』村上康成/作・絵、徳間書店/刊、1575円(税込み)5歳〜(2001年)
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