南にも北にもみんな
にせものの
どんぐりばかりひかりあるかな。
〔現代語訳〕南にも北にも、みんな偽物のドングリばかりが光っております。
〔評釈〕「歌稿〔B〕」の「大正五年十月より」六十三首中の十八首めの「383歌」。「歌稿〔A〕」では、初句から第二句にかけては「東にも西にもみんな」であり、第三句も「いつはりの/金色の」から「にせものの」へと推敲(すいこう)が行われている。初句の「東にも西にも」から「南にも北にも」は、(「歌稿〔A〕」の「378歌」でも触れた)賢治が「対象世界墨守派」ではないことを、ここでも示している。「どんぐり(団栗)」は、言語的には、「トチグリ(橡栗)の転か」〔『広辞苑』〕といわれ、百科事典的には「ブナ科コナラ属植物の果実のうち、果皮が堅く、熟しても外皮が裂けず、下方が総包(いわゆるお碗)に包まれるものの総称」〔『マイペディア』〕となる。童話「どんぐりと山猫」の裁判場面を彷彿(ほうふつ)させるようなシーンで、賢治の想像力の羽ばたきが、聞こえて来る。
(岩手大学教授)
|