チャイムがなって休み時間になりました。男の子が困った顔をして校長室に入ってきました。
話を聞くと、自分が勉強で使っている段ボール紙の裏に、落書きがされてあったということでした。手に取ってみると、一辺が20センチくらいの段ボール紙の裏に、確かに落書きがありました。
わたしは「困ったことをする人もいるもんだね」と言いながら、丁寧にその落書きを消し始めました。
「落書きを見たとき嫌な気持ちがしたでしょうね」
「鉛筆だからいいけれど、マジックで書かれたら大変だったね」
ちょっとの間に落書きはきれいに消し終わりました。
男の子の表情はいつもの明るい顔に戻っていました。
「どうもありがとうございます」
帰りかけた子に、わたしはこう言いました。
「1、落書きのことを気にして『許せない、嫌だ』と思って、すぐにみんなの問題として取りあげることもできるし、2、『こんなつまらないいたずらをする人でも、いつかは気づいて反省するだろうから、今は気にしないで、明るい顔で教室に戻ろう』と考えることもできるんですよ」
そして最後に、こう付け加えました。
「どちらにするかは、あなたが選べるんですよ」
その子は、にっこり笑ってこたえました。
「ぼく、気にしないほうを選びます」
わたしは落書きを見た瞬間、激しい怒りを覚えたのですが、すぐに行動を起こさなかったのには理由がありました。
その落書きが鉛筆で書かれてあったことと「書かれたのはきょうが初めてです」というその子の一言があったからです。
そしてもうひとつ、実は、これが一番の理由だったのですが、その子の瞳の中に、優しい人間だけが持つ「許しのまなざし」を見たからでもありました。
これが分別あるべき高学年の仕業であったり、マジックインクで書かれてあったり、あるいは何度もあるようだったら、そのときこそ犯人を捕まえて、学級全体の問題として話し合っていかなければなりません。
さらに、もし、いたずらされた子が心から悲しい気持ちになっていたら、たとえ鉛筆書きであっても、すぐに行動を起こさなければなりません。
きょうは「落書きという嫌なことがありました」が、その災難のおかげで「優しく広い心を持った子と出会うことができた」とても素晴らしい日でもありました。(盛岡市教育相談員)
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