2006年 8月3日 (木) 

       

■  〈校長室の窓から〉91 野口晃男 落書きされたとき 

 チャイムがなって休み時間になりました。男の子が困った顔をして校長室に入ってきました。

  話を聞くと、自分が勉強で使っている段ボール紙の裏に、落書きがされてあったということでした。手に取ってみると、一辺が20センチくらいの段ボール紙の裏に、確かに落書きがありました。

  わたしは「困ったことをする人もいるもんだね」と言いながら、丁寧にその落書きを消し始めました。
  「落書きを見たとき嫌な気持ちがしたでしょうね」
  「鉛筆だからいいけれど、マジックで書かれたら大変だったね」
  ちょっとの間に落書きはきれいに消し終わりました。
  男の子の表情はいつもの明るい顔に戻っていました。
  「どうもありがとうございます」
  帰りかけた子に、わたしはこう言いました。

  「1、落書きのことを気にして『許せない、嫌だ』と思って、すぐにみんなの問題として取りあげることもできるし、2、『こんなつまらないいたずらをする人でも、いつかは気づいて反省するだろうから、今は気にしないで、明るい顔で教室に戻ろう』と考えることもできるんですよ」

  そして最後に、こう付け加えました。
  「どちらにするかは、あなたが選べるんですよ」
  その子は、にっこり笑ってこたえました。
  「ぼく、気にしないほうを選びます」

  わたしは落書きを見た瞬間、激しい怒りを覚えたのですが、すぐに行動を起こさなかったのには理由がありました。

  その落書きが鉛筆で書かれてあったことと「書かれたのはきょうが初めてです」というその子の一言があったからです。

  そしてもうひとつ、実は、これが一番の理由だったのですが、その子の瞳の中に、優しい人間だけが持つ「許しのまなざし」を見たからでもありました。

  これが分別あるべき高学年の仕業であったり、マジックインクで書かれてあったり、あるいは何度もあるようだったら、そのときこそ犯人を捕まえて、学級全体の問題として話し合っていかなければなりません。

  さらに、もし、いたずらされた子が心から悲しい気持ちになっていたら、たとえ鉛筆書きであっても、すぐに行動を起こさなければなりません。

  きょうは「落書きという嫌なことがありました」が、その災難のおかげで「優しく広い心を持った子と出会うことができた」とても素晴らしい日でもありました。(盛岡市教育相談員)



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