2006年 8月4日 (金) 

       

■  〈賢治の歌〉479 望月善次 こざかしくしかもあてなき 

 こざかしく
  しかもあてなきけだものの
  尾をおもひつゝ
  草穂わけ行く。
 
  〔現代語訳〕利口ぶっていて、その上頼りにならない獣の尻尾(しっぽ)のことを思いながら、草の穂を分けて行くのです。

  〔評釈〕「歌稿〔B〕」の「大正五年十月より」六十三首中の十九首目の「384歌」。『校友会会報』第三十三号の「雲低き峠等」(銀縞)十四首の五首目に「あてもなき、けだものに似る、草の穂の、黄なるをふめば、こころわびしむ。」の形で発表されている。「歌稿〔A〕」とは、結句の表記が「わけゆく」となっている以外の相違はない。「こざかしく(小賢しく)」の「こ」は接頭語で、「未熟なものに対する軽蔑(けいべつ)を表す」〔『岩波古語辞典』〕。「こざかしく/しかもあてなき」は、一般的には「けだもの」に掛かるのだろうが、「尾」にかかる面白さも捨て難い。焦点が「草の穂」にあった「雲低き峠等」を感慨(「こころわびしむ」)を捨て、想像世界を拡大させた推敲(すいこう)過程に着目した。
  (岩手大学教授)

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