2006年 8月5日 (土) 

       

■  〈賢治の歌〉480 望月善次 しろがねの月は移りぬ  

しろがねの
月はうつりぬ
腐植土(ヒユーマス)の 野のたまり水
荷馬車のわだち。
 
  〔現代語訳〕銀色の月は映っています。腐植土(ヒユーマス)の溜(た)まり水に、荷馬車の轍(わだち)に。

  〔評釈〕「歌稿〔B〕」の「大正五年十月より」六十三首中の二十首目の「385歌」。第三句は「humus(フユーマス)」の形もあった。(「歌稿〔A〕」では、「フユーマス」のルビがなく同じ形)。また、「歌稿〔A〕」の結句には、「野馬車のわだち」もあった。「腐植土(ヒユーマス)」は、「フィマウス(humus)のルビでも登場。腐食分解した植物のよく混じった黒土。」で童話「台川」には「腐食質(フィウマス)の野原のたまり水」という類似した表現があるし、あの「精神歌」の「ワレラハ黒キ土に俯シ」もある〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕。「月」が水に映っているという情景は、古来多く歌われてきたありふれた情景だが、そこに「腐植土」や「荷馬車のわだち」が来て賢治らしくなる。
  (岩手大学教授)





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