■ 〈盛岡ことば入門〉307 黒澤勉 ほでくてねやづだ
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二一六、人さまざま(その六)しゃべりっこ・けっぱり・じょっぱり
@明るい人・暗い人
「しゃべりっこ」(おしゃべり)で、よく笑う、愛敬(あいきょう)のある人は「おもしぇひと」と呼ばれます。「おもしろい」は盛岡弁で「おもしぇ」となります。共通語の「おもしろい」とニュアンスが幾分異なり、陽気で楽しい、明るいといった含みが感じられます。周囲を明るくする「おもしぇひと」は、それぞれの集団の中にあって、貴重な徳のある人と言えるでしょう。反対に、ちょっと暗い、陰気な人は「いんきくしぇひと」と言われます。
Aがんばり屋・強情者
がんばり屋のことを盛岡弁では「けっぱり」と言います。「けっぱり」は「蹴る」と「張る」の複合した動詞で、がんばるとか、ふんばるという意味で「けっぱる」人を「けっぱり」と言います。もともと馬が大地を蹴って、踏ん張る、そんな様子を言う馬産国ならではの言葉で、力いっぱい働く肉体労働のイメージもあります。「どさんこ」がもともと北海道生まれの馬であったのに、北海道生まれの人をを指すようになったことも思い起こされます。
「けっぱり」に似た言葉に「じょっぱり」があります。これは「ごーじょーはり」(強情をはる人を)縮約した言葉です。「きゃっぱり」という言葉もありますが、これは水たまりなどに足をざぶんと入れることで、「きゃっぱりした」などと言います。
Bわからず屋・役立たず
「うそまげで(嘘をついて)さっぱりかせがね、ろぐでねやづだ」のように「ろぐでねやづ」は、役に立たないのらくら者、道楽者を言います。一体「ろく」とは何でしょうか。『物類称呼』という本(一七七五年)によると「ろくといふは直(すなほ)の字に当るか、物を直に置く事をろくに置くといひ、直ならぬ人を、ろくでなしと云」と解説しています。
この説明にあるように「ろく」とは土地の平らなこと、水平であること(建築用語に「ろく墨」とか「ろく屋根」という言葉があり、「ろく」には「陸」という漢字が当てられ、陸地のように平らだという意味とされています)、そこから気持ちが平らかであることをいう意味でも使われました。それがやがて「酒を呑(の)む者はろくでない」(『浮世風呂』)などという言い方を経て「ろくでなし」という名詞が生まれたとされています。(『日本国語大辞典』による)
似たような言葉に「ほずなし」「ほでなし」があります。わからずや、役立たずというような意味です。これはもともと「方図」(物事の限り、きりという意味)がないということで、限りがないということから、とんでもない、分別がない、正気でないなどという意味になりました。古典では「ほうずがある」(限りがある)というような言い方もなされていましたが、盛岡弁では専ら否定形で使われ、「ほんでねやづだ」とか「ほでくてねやづだ」などと言ったりします。
Cうるさい人・やかましい人
あれこれと口うるさく人に干渉する人は「こうるせひと」「うるせやづ」などと言われます。単に「うるせ」というより、いかにも実感のこもった言葉です。似たような言葉に「やがましねひと」とか「こやがましねひと」という言葉があります。
D不潔な人、清潔な人
見て汚い、くさい臭(にお)いを放っている。それを不快に感じるのは、生理的な感覚として自然なことです。盛岡弁では、そういう不潔な、だらしない人のことをののしって「びしょたれ」とか「びしょたがり」などと言います。「びしょ」とは何でしょうか。布から水が垂れる様子を「びぢょびぢょど」と言いますが、そこから来ているのかもしれません。
「びしょたがり」に対して、身ぎれに、清潔にしている人を「さぱっとしてるひと」と言います。「さぱっと」と「さっぱり」の盛岡弁で、これまた擬態語による表現です。「清潔な」という言葉より、こうした擬態語による表現の方が実感のこもった言い方と言えましょう。
E泣き虫、笑い上戸、怒りん坊
昔は、子供たちがよく泣いていました。そんな子供を見ると十和田では「なげっつ」と言いました。沼宮内あたりでもこの言葉を使っているようですが、盛岡では「なぎ」とか「なぎわらす」と言います。
反対によく笑う人のことを「がは」と言います。高笑いすることを「がはがはどわらう」「がはめぐ」などと言いますが、その「がは」を名詞としたものです。ちなみに、ニヤニヤすることを「にったかむ」とか「にっためがす」「にかっとす」「にやめがす」などと言います。また「にっくらかっくらず」とか「にっくらにっくらず」などとも言います。(「にっくらかっくら」は、飴(あめ)などが歯にくっついたりするときにも使いました)
怒りん坊、短気で腹を立てやすい人を「いせっぽ」とか「えへるやづ」と言います。「いせる」「いへる」「えへる」は、腹を立てることで「ニワトリぁえへでら」というと卵をかかえて翼を広げていることを言います。「いせる」はおそらく「ふくらむ」というのが原義で、そこから怒るという意味になったものでしょう。
(岩手医大教養部教授)
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