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「何(なん)の用(よ)だ。」「酒(さげ)の伝票。」「誰(だれ)だ。名は。」「高橋茂吉(ぎづ)。」「よし。少(ぴや)こ、待で。」
〔現代語訳〕「何の用だ。」「酒の伝票だよ。」「誰だ。(お前の)名は。」「高橋茂吉だよ。」「よし。ちょっと待て。」
〔評釈〕「大正五年十月より」〔「歌稿〔B〕」〕六十三首中の五十二首めの「415歌」。「歌稿〔A〕」では、「酒」にルビなし。また、結句は「よしきたり。待で。」であった。結句の「少(ぴや)こ、待で。」は、当初「少(ぴや)こ、ま」の「ま」を消して「読点」を付加している。何と言っても、南部地域語を用いて、しかも台詞(せりふ)のみでまとめているところが特徴。基本的には、短歌定型の五七五七七が、その音数さえ守れば、他の制約を受けない幅広さをもっていることに起因している。(そうした意味では、口語と文語の一体化を「国語の統一」として短歌の寿命をそれまでとした先輩啄木の「一利己主義者と友人との対話」も間違っていた)短歌定型の幅広さの上に、南部語が活(い)き活きと踊る。
(岩手大学教授)
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