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「て・に・を・は」といった助詞はよく前置詞と対比されます。どちらも、語と語を結びつける「とりもち役」をしているという点で似ています。
例えば、「その召使はその王様に話しかけた」のように「王様」と言ってから「〜に」がきます。だから、ヨーロッパの言語学者たちが助詞を後置詞の部類に入れます。一方、英語はThe servant spoke to the king.です。toと言ってからthe kingの順です。「に〜」と言ってから「王様」と言っていることになります。名詞the kingより前にあるから前置詞と言ったのでしょうが、これは単に位置だけの問題ではありません。
「王様」は男ですから「彼」にしてみましょう。ここでうっかり、「彼」はheだと誤解して、「彼に話しかけた」をspoke to heはダメでしたね。spoke to himです。heは「彼は・が」でhimは「彼に」か「彼を」という意味の語形です。
このことは、to次にはhim、つまり「〜を」や「〜に」の意味を含んだ語形がくるのだということを示しています。それじゃ、the kingはどうなんだ?「王様は」も「王様に」も「王様を」も現在の英語では全部the kingではないか?「王様に」用の語形でなければならないはずなのに。
実は、約450年から1000年ごろまでの英語では「王様」はcyningという文字でキニングと発音されていました。
そのころは「王様は」と「王様を」はcyning(kingに当たる)で「王様に」はcyningeと言う語形でした。従って、現代の英語に当てはめれば、to the
kingeとなるべきなのです。つまり、前置詞toは次にくる名詞の語形(この場合は間接目的格の語形)を支配していたのです。同属語派のドイツ語は今でもそうです。これが本来です。
ところが、イギリスはバイキングやノルマン人(フランス語を話す人々)の侵入によってアングロサクソン語が持っていた複雑な語尾変化をやめた結果、「王様の」という語形king’s以外は、「王様は」も「王様を」も「王様に」も、みんなkingでよいことになったのでした。
(言語人文学会顧問)
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