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県道1号線の新山伏トンネルで「雫石あねっこの町」は「沢内およねの里」にきりかわる。トンネルから、いきなりミドリ濃い西和賀町の沢内に飛びこんだ。つややかな夏の終わり、私は真昼岳へ向かった。
千畑(秋田)と沢内(岩手)の県境には「真昼山地」とよばれる1000メートル前後の山塊がある。風鞍、鹿ノ子山、女神岳の連なりの主が真昼岳だ。北にふっくら南にこんもり、たおやかにミドリの回廊を結んでいる。
登山口は四つ、岩手側は一般的な兎平コースと峰越コースを登る。マタギ資料や雪の生活用具を蒐(しゅう)集する碧祥寺博物館をすぎ、坂本で真昼温泉方面へ右折する。木内川沿いにのびる真昼林道を西に9キロメートル行く。木々の間にとんがった女神山が見えると、登山口の駐車場はもうすぐだ。
小沢まで下り、おとぎ話にありそうなつり橋を渡って、いよいよ出発!樹林帯の平坦地からブナ林の急坂をへて、標高840メートルの広やかな草原、「兎平」に出る。これより山頂まで小1時間、気持ちのいい尾根歩きが続く。
この辺りはいつ訪れてもササ原が凪(な)いでいる。6月にはレンゲツツジが咲き、ツリガネニンジンやウメバチソウは秋を告げる。だが、いったん寒風にしごかれようなら輝かしい季節は去り、もはや小動物だけが息づく白い原と化す。
私はふと、真昼山地に棲(す)む野うさぎになってみたいと想(おも)った。満月の夜はお月さまを眺められそうだし、青い月光で跳ねてもみたい。天の川は星々をめぐり、大河のごとくろうろうと優美だろう。
お昼時、私は山頂に着いた。秋田側の善知鳥コースや赤倉コースから登った人々もつぎつぎ到着。「昼だからランチ。それなら『ザ・ランチマウンテン』だね」と、知らぬ者同士で笑いあった。
伝説によると、坂上田村麻呂が東征のおり、山頂で真昼を迎えたことから真昼岳だという。岩手側からはアプローチが深くなかなか姿を見せない真昼岳だが、秋田の穀倉地帯・仙北平野からはド〜ンとミドリの山容を際立たせている。
昼〜おにぎり〜コメ〜今年も豊作だぁ〜。里の稲穂を見守るかのような真昼神社奥宮が建っていて、万が一の緊急避難として寄せてもらえそうだった。
さて、設置されているはずの二等三角点が見あたらない。私はササ原を漕(こ)いで探した。「そこにあるはずだョ〜」と叫んだ人まで、とうとう目で加わった。が、どこにも無い。いずこに跳ねたのやら真昼岳の三角点やぁ〜イ。
また登ったら、やはり懲りずに探すだろうなぁ……私は独り言うのだった。
(版画家、盛岡市在住)
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