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■122巻紙 明治36年6月28日付
宛 仙台市片平町五十六番地第三號
佐藤方
発 岩手縣紫波郡彦部村大巻
前略愈々無事勉学罷在候由大慶ニ候、当方ニ於テモ無事別条ナク相凌キ居候、頃日之霖雨ニ農事ハ勿論養蚕家ノ心傷一方ナラサル事ニ候、扨テ此度之受験ハ最モ生涯運命之決スル処ナルベシ、何分後悔ナキ様可致候、金束(策)方ニ困難致居候為メ送金意ノ如ク可(不)相成事間ニ可有之候、不取敢今回金四円送金候ニ付可相成ハ来月分ニ持越次回ニ弐三円ニテ間ニ合セル様強メテ節険(倹)相成度、余者萬々後便ト申残ス、早々
六月廿八日 野村長四郎
野村長一殿
二伸試験景況ハ可相成報知ヲ要ス
【解説】「前略いよいよ無事勉学しているとのこと大慶である。当方も無事別条なくしのいでいる。この頃の長雨で農事はもちろん養蚕家の心の痛手はひとかたではない。さてこのたびの受験は生涯の運命を決するものであろうから、何分後悔のないようにすべし。金策に困難しているため送金が意の如くできないでいる。取りあえず今回4円送金するので、なるべくは来月分に持ち越し、次回に2、3円で間に合わせるよう、努めて節倹するように。余は万々後便に申し残す。早々」という内容。
宛先が仙台市片平町になっているところから推して考えれば、父が大いに勧めている仙台第二医科専門を受験のためであろうか。盛岡中学同期の親友、猪狩見龍(五山)の明治36年6月28日付の長一宛書簡(岩手県和賀郡岩崎村水澤銅山…鑛業所内から発信)がある。
「君は仙台にありとよ、余は驚愕せり、君は獨法を志願せりとよ(中略)君の勤勉と忍耐が、君をして第二高等学校法科生たらしむるにあり(以下略)」とあり、どうも父の希望の医科ではなく、長一は法科受験を目指しているようである。生活費の工面でいよいよ金策に困難を極めていることがひしひしと感じられる。
■123半紙 明治36年9月21日付
宛 東京市本郷区台町十九番地三洲舘
内
発 岩手県紫波郡彦部村
前略手紙到着開見致候、学校之方針ハ何レナリ随意ニ可致候、併シ明年ノ入学ハ強メ医学ト確定可致、何人ノ話シニモ官途又ハ議員弁護士等ハ当節見込無之候、□駒ノ為メ盛岡ニ五六日滞在中手紙着家内其侭差置候故送金トモ延引ニ相成定メテ不自由致候乎、本日電報為換(替)ニテ金五円差立候筈、
家内ニモ別段替(変)リ事無之自分三日間斗(計)リ大ニ下痢症ニ罹リ医師ノ診察モ得全快致候、年寄等モ少々下痢ニ罹リタルモ差シタル事モ無之候、
彦部村星山工藤市太郎方ニ赤痢五名程出来日々検査立會ニ出張致居候、赤澤村□山邊ニモ四五軒出来実ニ危険ニ候、
次ニミキ之義(儀)畑中ヨリモ折角懇望アルニモ不掲(拘)、五六日以前ヲ中野ノ叔父ノ中入ニテ佐比内村隠居沼田松治ノ長男沼田照蔵トヤラ(盛中学五年生)ヘ縁談之義(儀)申込ミタリ、佐比内村ニテ相應之財産モアリ殊ニ人物モ能キ家柄中学以上ノ人物ナル事故世間ニモはつかしからさる事ト存し中野ニ相任セ略等相談相確メ不日約定酒持参スル筈ニ候ニ付否ヤ取合セ候、可然ト同意ニ候ハゝ至急返書送付スベシ、
野村豊吉ヘハ未タ郵便券不差立ニ付直接面會シテ其礼意ヲ述(ブ)べシ、
豫メ承知アルヘク幻焼注文未タ何等返書無之ニ付至急直接責付送付相成ル様可致、画ノ撰方モ可然取斗(計)候、何分傳染病赤痢(ハ(バ)ヱ(イ)キン学等)必要ニ有之候、此場合傳染病予防ノ為一日も早ク幻焼き必要ニ之有候、此場合過クルニ於テハ或ハ不用ニ残ス哉モ難斗(計)ニ付其邊談判可致候、
新橋南金六町十三番地 吉澤商店幻焼部
稲作ハ当地唯一ト人々ニ称サレ実ニ満足致居候、
学事之義(儀)ハ今更事新シク述フルノ必要無之候得共科目外即チ入学用ノ外一切観ル事ヲ禁ス、又交際モ多分ハサケル様ニ可致、学資送金実ニ推察アルベク(キ)筈、可相成半バ苦学ト云フ方ニ志シ勉学可相成候、
先ハ病後撰(選)擧、□駒、赤痢等之為メ晝夜ヲ別タヂ(ズ)繁忙文意之不明モアルベシ、余ハ後便ニ申残ス、早々
九月廿一日 野村長四郎
長一殿
本日郵便為換金五円差立候宛本郷区台町九番地三洲舘ト誤リ差立候
【解説】「前略手紙到着、開見した。学校(予備校)入学の方針はいずこなりとも随意にせよ。しかし明年の入学は努めて医学に確定すること。何人の話でも官途または議員、弁護士等は当節見込みがない。
馬競りのため盛岡に5、6日滞在中に手紙が着き、家内がそのままにしておき送金もしないでいたので、さぞ不自由していることだろう。本日電報為替で5円送金した。
家内にも別段変わりない。自分は3日間ばかり大いに下痢症状になり、医師の診察を受けて全快した。年寄り等も少々下痢にかかったが大したことはない。
彦部村星山の工藤市太郎方に赤痢5名程出て日々検査立ち会いに出張している。赤沢村□山辺の4、5軒にも出て、実に危険である。
次に、ミキのことについて、屋号畑中、作山家より折角懇望されたが、5、6日前に屋号中野、高橋家(長一の母の実家)の叔父を口入れに頼み、佐比内村の屋号隠居、沼田松治の長男沼田照蔵とやら(盛岡中学5年生とあるが卒業生名簿には見当たらない)へ縁談を申し込んだ。
佐比内村において相応の財産もあり、殊に人物、家柄も良く、中学以上の人物であるので世間にも恥ずかしくない。屋号中野に任せ大体相談を確かめいつの日にか、約定酒持参することにしたいので、意見を聞きたい。同意であれば至急返事を貰いたい。
野村豊吉へ、まだ郵便を出さないでいるので直接面会してその礼の意を述べてほしい。
予め承知してほしいが、幻焼(色刷り印刷のことらしい)の注文について、いまだ何ら返書がない、至急直接責め付けて送付するようにさせること。画の選び方しかるべく取りはからっている。何分伝染病の赤痢対策(バイキン学の紹介等)に必要であるので、この場合伝染病の予防のため一日も早く幻焼が必要である。遅いと不要になってしまうのでその辺談判してほしい。
新橋南金六日町十三番地
吉澤商店幻焼部
稲作は当地一番と人々にほめられ実に満足である。
学事のことは、今さら新しく述べる必要もないが科目外、すなわち入学用の外は一切見ることを禁ずる。また交際もおおかた避けるようにすべし。学資送金の困難を推察しているはず。なるべく半ば苦学という方に志し、勉学するようにしてほしい。
まずは、病後、選挙、馬競り、赤痢対策などのため、昼夜を分かたず繁忙であるので、文意が不明なところもあると思う。余は、後便に申し残す、早々
(追伸)本日郵便為替で5円送金した。宛先を本郷区台町9番地三洲舘と誤って書いた。」という内容。
浪人中の予備校の入学は何処でも良いから、早く入学するように。ただし、明年の正規の入学校は、医学に限ると強く指示している。そして入学試験にかかわる科目だけに集中し、他のものを見ることは一切禁ずると厳しく言っている。
妹ミキの縁談先について意見を聞いているあたり、長子であり頼みとする長一を重んじていることがうかがえる。
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