2006年 10月 1日 (日) 

       

■ 〈賢治の歌〉535 望月善次 黒ヒノキ、月光よどむ

 (第四日夜)
  くろひのき
  月光澱む雲きれに
  うかがひよりて何か企つ。
 
  〔現代語訳〕黒檜(ひのき)よ。(お前は)月光が澱(よど)んでいる雲の断片に、様子をうかがって何を企てているのでだろうか。

  〔評釈〕「大正六年一月/一九一七年」二十一首中(〔ひのきの歌〕)の九首目の「437歌」で、「第四日夜」二首の冒頭作品。『あざりあ』第一號では、「くろひのき、月光よどむ 雲きれに/うかゞひよりて 何か くはだつ」の形で、「歌稿〔A〕」でも「澱む」、「企つ」など、平仮名部分を漢字とした以外の変更はない。従って「歌稿〔A〕」からの変更も、「うかゞひ」を「うかがひ」とした程度の変更となっている。つまり『あざりあ』から、ほとんど変更がない作品と言える。「波旬のいかり」から始まった「ひのき」は、雪を被って「菩薩」姿となり、今また、夜の闇の中の「黒檜」となり、何か悪事を企てるものとなる。単純な照応は危険だが、檜は話者の心の反映ともできよう。
  (岩手大学教授)


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします