2006年 10月 3日 (火) 

       

■  〈賢治の歌〉537 望月善次  雪落ちてヒノキは揺るる 

 (第五日夜)
  雪落ちてひのきはゆるゝ
  はがねぞら
  匂ひいでたる月のたわむれ。
 
  〔現代語訳〕(その木に被っていた)雪が落ちて檜(ひのき)は揺れています。鋼のような空を背景として。これは、この鋼のような空に、匂(にお)い出した月の戯れなのでしょうか。

  〔評釈〕「大正六年一月/一九一七年」二十一首中(〔ひのきの歌〕)の十一首目の「440歌」で、「第五日夜」四首の冒頭歌。『アザリア』第一号では、「雪とけて ひのきは 延びぬ はがねのそら/匂ひ出でたる 月のたわむれ。」の形で、「みふゆのひのき」十二首のうちの九首め。「歌稿〔A〕」もこの形を守り、「歌稿〔B〕」においても、その形から出発した後、抽出の形となった。「空」を「鋼」と見るのは、「春と修羅」の「心象のはいいろかがねから」など賢治好みの表現の一つ。なお、「現代語訳」では、「はがねぞら」を「ひのきの背景」と「月の出ている場所」の両方に掛けておいたし、「たわむれ」は、それ以上のしっくりとした訳が思い浮かばずに漢字とするに止めておいた。
(岩手大学教授)


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