2006年 10月 8日 (日) 

       

■ 〈胡堂の父からの手紙〉80 八重嶋勲 国の両親へ失敗知らせることできぬ

 ■127半紙 明治36年10月29日付

  宛 東京市本郷区臺町十九番地三洲舘
    内
  発 岩手縣紫波郡彦部村大巻 
前略チマコ(雪鞋)本日佐比内ヨリ到達、直チニ小包ニテ送付致候、当地ニ於テ一足四銭以上ニ候、当地ニテ数万(岩手全体ニ及フス)二三週間内ニ取纒メル様之場合ニハ農家ハ一時他之事業ヲ止メ専業トセサルヲ不得ベシ、然ル時ハ四銭以上ナルベシ、然ラハ取纒メ汽車ノ荷積迄ニ五銭五厘位ナラザル時ハ容易ニ急場之間ニ□ナルベシ、此見本ハ昨年之藁ナリ、本年ノ藁ニテ製作スル時ハ体裁ヨク一日使用弐里以上ノ利益アルベシ、又検査ノ上大小ノ必要用ナル時ハ大小ニ依リ高下ナシ、
カンチキハ沼宮内町ニ井豊之十之助ヨリ申込置キタリ、是又ニ三日ニシテ送付スル事トナルベシ、
袴当時仕立中ナリ、シャチ(ツ)脚(股)引近日中送付スル事ニ致候、
聞ク処ニ依レハ岩動孝(康)治、木村某之財産テシテ専門医学校ヘ入学之由、況ヤ当家之如キ不如意之モノハ頓而名古屋学校医学ニ入学スル事ハ大々的希望ニ候、夫共明年ハ必ラス三部ニ入学スル事安全ニ候ハゝ免ニ角若シ失敗ニ期シ(ス)如キ事アッテハ世ノ中ニ顔出モセラレザル境遇ニ立ツ至ル、実ニ容易ナラザル心配之事ニ候、
雪草鞋、カンヂキ等之事可相成一手ニ引受ケ何程ナリ前金送付スル様可取斗(計)候、
当時新聞ハ岩手新聞三種及野村豊吉ヨリ送付ノ中央新聞講讀致居候、豊吉ヘハ未タ何等ノ礼モ不致置候、若シ面會スル事得ハ宜敷様答礼スベシ、不日金五十銭モ送付スルノ見込ニ有之候、
戦争ノ珎ニ破烈スル確実ナル事有之時ハ至急報導スベシ、
右用事迄、早々
  十月廿九日       野村長四郎
   野村長一殿
  
  【解説】「前略、チマコ(雪鞋)本日佐比内より到着。直ちに小包で送付した。こちらでは1足4銭以上である。こちらで数万(岩手全体に呼びかけ)2、3週間以内に取りまとめるような場合は、農家は一時他の仕事を止めてかからなければならない。そのような時は4銭以上になるであろう。そして取りまとめ、汽車の荷積みまでに5銭5厘位にならなければ容易に急場に間に合わせることができないであろう。

  この見本は昨年の藁(わら)である。本年の藁で製作する時は体裁がよく1日使用でき、2厘以上の利益があるであろう。また検査の上大小の必要がある時は大小による高下はない。

  カンジキは沼宮内町に井豊商店の十之助から申し込んでもらった。これまた2、3日で送付する事になるだろう。

  袴は今仕立中。シャツ股引は近日中に送付する。

  聞くところによれば岩動康治(炎天)は、木村某の財産で専門医学校へ入学するとのこと、いわんや当家のごとき金のゆとりのない者は名古屋学校医学に入学することは大いに希望するところである。それとも明年は必ず三部に入学するというのが安全である。もし失敗することがあっては世の中に顔出しもできないことになり、実に容易ならざる心配事である。

  雪草鞋、カンジキ等のことはなるべく一手に引き受けて、何程かの前金を送ってもらうようにとりはかること。

  今、新聞は、岩手新聞三種及び野村豊吉から送付されてくる中央新聞を呼んでいる。豊吉へはいまだ何らの礼もしていない。もし面会することがあればよろしくお礼しておいてほしい。そのうちに50銭くらいも送付しようと思っている。

  戦争が珍しく破烈するという確実な情報があったときは急報するように。

  右用事まで、早々」という内容。

  家計不如意の場合であるので、学費の捻出を考えるとき、雪草鞋(ツマゴ)の話が起こり、これで利益を上げたいという父の心境はよく分かる。

  「聞ク処ニ依レハ岩動孝(康)治(炎天)、木村某之財産テシテ専門医学校ヘ入学之由」ということに関して、岩動康治(炎天)から胡堂にあてた面白い手紙がある。

  明治36年12月20日付、
宛 東京市本郷区台町十九 三洲舘内
    野村長一
発 愛知県名古屋市南園町二丁目六十小
   ゼ木方 岩動康治

  「(前略)已に原兄(抱琴)、柴兄(浅茅)より御話被下し事ならんが僕は、今回試験にて失敗仕候、而し僕の失敗を國の両親兄弟へ知らする事出来ぬ事情有之候ため両親兄弟、盛岡の知人等へ皆及第したりと知らせ置き候へバ貴兄に於ても何卒僕を御助け被下れて若し人に聞かれ候節は及第なりと御言ひ置き被下度。これのみは貴兄に対して一生の御願に候、決して失敗志たりとは御言ひくださらぬ様伏して願上たてまつるにて候。猪川浩(箕人)君へも其旨御傳へ被下度願上候、失敗したりと有りのまゝに御知らせ申せしは、柴、原、二君、貴兄と只これのみに候(以下略)」という文面。

  長文であるので省略したが、ある手段があることを悟り、次期試験には絶対に合格する自信があるために、今回の不合格をひた隠しにするというのである。ちなみに岩動康治(炎天)とは、故岩動道行国会議員の父である。

(県歌人クラブ事務局長)


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