2006年 10月 9日 (月) 

       

■  〈賢治の歌〉543 望月善次 たそがれの雪に立ちたる

 (第七日夜)
  たそがれの
  雪にたちたるくろひのき
  しんはわづかにそらにまがりて
 
  〔現代語訳〕黄昏(たそがれ)の雪を背景にして立っている黒ヒノキよ。その芯(しん)は、少し空に向かって曲がっています。

  〔評釈〕「大正六年一月/一九一七年」二十一首中(〔ひのきの歌〕)の十七首めで「第七日夜」とされた三首中のうちの冒頭歌でもある「445歌」。次に一連のクライマックスともいうべき「二首」を迎える一首。話者の見たままを、余り捻(ひね)ることをせずに、割合素直に(素直過ぎるという見解もあろう)表現した感じを与える一首。「しんはわづかにそらにまがりて」の第四句と結句とから、評者が読み取ったものは三つであった。一つは、話者の視線が下から見上げたものであることであり、二つは、「わずかにそらにまがりて」に示された物事を冷静に見ようとする姿勢であり、三つは、結句「まがりて」の中止法に示されている軽い止め方であった。軽く止めてこそ、次に来る作品は生かされる。
(岩手大学教授)
 


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