2006年 11月 4日 (土) 

       

■  〈賢治の歌〉568 望月善次 かんばしき羽の音のみ

 かむばしき
  はねの音のみ木にみちて
  すがるの黒きすがたは見えず。
 
  〔現代語訳〕香(かんば)しい羽の音だけが(厚朴の)の木に満ちて、スガル(ジガバチ)の黒い姿は見えません。

  〔評釈〕「歌稿〔B〕」の「大正六年四月」四十二首中の十八首目の「468歌」で、内容的には、前に置かれた「467歌」と重なるもの。「かむばしき」は、「カグハシ(香+細し)」から転じた「カンバシ(香し・芳し)」の連体形だから、「かんばし」が適切か。「かむばしき(ママ)+はね」は、中村明の言う「結合比喩(ゆ)」。丁寧に描写すると「朴(ほお)の花の香りによって包まれたスガルの羽の音」等になろう。本来は、「匂(にお)い(嗅覚)」に用いる「香し」を、「羽の音」という「聴覚」と結びつけたところが、「通常の語の結合とは異なる結合」である「結合比喩」の「結合」たる所以(ゆえん)であるが、このような感覚相互のズラシは、「擬人的用法」と並んで、賢治における結合比喩の典型的な用法の一つ。
(岩手大学教授)


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします