連山の
雪にほやかに空はれて
すがるむれたりひかるこのはな。
〔現代語訳〕連山の雪もつややかで美しく、空も晴れて、スガル(ジガバチ)も群れているのです。この厚朴の花は。
〔評釈〕「歌稿〔B〕」の「大正六年四月」四十二首中の十九首目の「469歌」で、賢治のメモに従うならば、南昌山中の嘱目の光景で、その纏(まと)め的一首ともなっている作品。「歌稿〔A〕」では、(もちろん一行形ではあるが)抽出歌と同じものの上に「山なみの雪きらゝかににほひ出でたれば木の花ひかりすがるむれたり」を上書きしている。「にほやか(匂やか)・匂いやか」は、「つややかな美しいさま。」の意であるが、背後には、「厚朴の花」の香りも漂っているともできよう。「連山の雪」、「晴れた空」、「群れるスガル」、「(高い香りを放つ)厚朴の花」と、役者を揃えた一首で、爽やかにも仕上がっている作品だと言えようが、短歌的求心性の点からすれば異なった評価も予想される。
(岩手大学教授)
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