2007年 1月 9日 (火) 

       

■  〈イタリアンチロルの昼下がり〉第9話 及川彩子 時の贈り物

     
   
     
  アジアゴ高原のふもとに、カルドーニョという小さな町があります。この町に、日本人のフレスコ画家坂田秀夫、由美子ご夫妻が住んでいます。その坂田さんから「友人ジョバンニさん宅の壁に日時計を描くよ」と聞き、見学に行きました。昨秋のことです。

  出迎えてくれたジョバンニさんは、大柄で物静かな風貌。家具造り40年の職人でしたが、退職後、奥さんのマリリンダさんと、先祖から受け継いだ広大な畑の維持に大わらわ。2人に案内され、庭を巡ると、自宅隣の娘さんの新居に、高い足場が組まれていました。

  見上げると、絵筆を持った坂田さんは「調子は上々」と絵の出来具合に満足そうでした。

  「もうすぐ初孫が生まれるんです。そのお祝いに」とジョバンニさんが、うれしそうに語ってくれました。娘さんの希望だという日時計の鳥の図柄は、周辺で見られるヤツガシラやサギなど。今にも飛び立ちそうな躍動感が、新しい命の象徴のように見えました。

  親から子へ、子から孫へと受け継がれる日時計は、まさに「時」の贈り物。「秋分の日、ヒデオに指示され、毎時間壁に登って、影の位置に印を付けたんだ。自然という普遍的なものに守られる家族は、永遠だね」とジョバンニさんは目を細めました。家も畑も、すべて時と共に熟れていくことを知る言葉でした。

  坂田秀夫さんは千葉で教員生活をしていましたが定年後、フレスコ画を学ぶため、絵が趣味の由美子さんとイタリアに移り住んで12年。精力的に制作活動をしています。

  フレスコ画は漆喰(しっくい)を塗った壁が乾かないうちに、顔料で描きます。何百年も色褪(あ)せないので、教会や役場の塔にも日時計が描かれています。目盛りは朝8時から午後3時まで。実用的ではありませんが、伝統的図柄です。

  高い外壁での作業は、危険や苦労が伴いますが、完成した時の喜びは格別だそうです。

  フレスコ画の完成から1カ月。男子グリエルモちゃん誕生の連絡が届きました。
(隔週火曜日掲載)

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