2007年 1月 9日 (火) 

       

■  〈賢治の歌〉631 望月善次 葛根田、谷の上なる

 葛根田
  谷の上なる夕ぞらに
  うかびいでたる
  あかきひとつぼし。
 
  〔現代語訳〕葛根田の谷の上にある夕べ空に、浮かび出した明るい一つ星よ。

  〔評釈〕「歌稿〔B〕」(「大正六年五月)四十五首中の二十四首目の「520歌」。「葛根田(かっこんだ)」は、地名。「葛根田川」となった時には、「くずねたがわ」の訓(よ)みもあり、流れは雫石川に注ぐ。「あかきひとつぼし」は、言わずもがなのことでもあるが、「金星」(ビーナス)を指す。賢治作品にしばしば登場する星でもある。「金星」は、「宵の明星・明けの明星」とも呼ばれるが、ここではもちろん「宵の明星」。「明星(みょうじょう)」も、もともとは「明るい星」から来た語であろうから、一首はまるで、「宵の明星」の定義の一つを示したような作品とも言えよう。なお、結句「あかきひとつぼし」に字余り感が在るのは、「あか/き○/ひと/つ○/ぼし」と五拍になることによる。
  (岩手大学教授)

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