2007年 1月 10日 (水) 

       

■  〈賢治の歌〉632 葛根田、薄明穹の

葛根田
  薄明穹のいたゞきに
  ひかりいでたる
  あかきひとつぼし。
 
  〔現代語訳〕葛根田の薄明穹(きゅう)の頂上に、光り出した明るい一つ星よ。

  〔評釈〕「歌稿〔B〕」(「大正六年五月)四十五首中の二十五首めの「521歌」。「葛根田薄明穹のいたゞき」は、具体的にはどこを指すかの特定は困難であろう。評者のような盛岡に住む者にとってもそうだから、仮に、「葛根田」が思い浮かばぬ地域の読者にとっては、この地名を特定できないことから来る不明感は、より強いものであろう。だから、賢治の伝記にのみ関心が傾斜し、この場所の特定に情熱を燃やし、その解明によって一首が解けたと錯覚する読者や、事実を連ねただけのような一首に「只事歌」の典型を見て「だからどうした」とする読者とを生むことも必定。賢治の短歌には、平凡歌と秀逸歌とが混合するが、前者の系譜に位置するものだというのが、今の評者の率直な感想である。
  (岩手大学教授)


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