■ 〈ドイツ西部の森と街へ〉20 下田一 北上高地とどこかが違う
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バスは、標高800〜1千メートルにある牧草地と森を縫うように続く道路を、南に向かった。
ポット教授「農畜産業が不振なので、この地域の人たちは観光客の誘致を志向している」「農業、牧畜と森林の自然景観を共生させたアグリツーリズムである」「シュヴァルツ・ヴァルトという、自然から与えられた条件を活用させている」「本物の自然を守り、残しながら、長期滞在できる民宿で、従来からの生活と結びつけている」「この地の素晴らしい景観で、日ごろのストレスを癒やすために、多くの人が長期滞在をする」。
見る、写す、メモる、私も忙しい。
忙しい中で私は思った。『わが郷土岩手の北上高地と、このシュヴァルツ・ヴァルトでは、どこかが違う、確かに違う感じがある』『東西南北の広さ、標高も800〜1千メートル、傾斜のきつい谷間の渓流、上り詰めると高原性の地形、森林と牧草地(酪農)、どの条件も似ているが、受ける印象が違うのだ』『なぜだろう。それは何だろう?』と、移り変わる窓外の景観に、きょろきょろと視線を巡らしながら考えた。
『葛巻町と旧山形村境の平庭峠は820メートル、旧玉山村と岩泉町境の早坂高原は900メートル、盛岡市東方の区界高原740メートル、南にある遠野市の荒川高原1059メートル、さらに江刺市と住田町の種山ケ原871メートルも、ここと同じ標高だ』『年間の降水量2千ミリメートル、積雪深も同じくらいと聞いた』『自然条件は、まったく似たような高原と牧草地である』と思う。
遠くシュヴァルツ・ヴァルトの最高丘フェルトベルク(1493メートル)が見える。フェルトは英語のフィールドで、畑、野原のことを指すというが、一段と高い頂上ではなく、周りより少し高くなっているだけである。
バスは、ヘレン・タール(ヘレンは地獄、タールは谷)に入りつつあったが、考えをまとめると『森林と牧草地から受ける色彩の違いではないか。牧草の明緑色は北上高地もシュヴァルツ・ヴァルトも変わりはない。散見する乳牛も同じであるが、森林が違うではないか』『シュヴァルツ・ヴァルトはトーヒ主力の暗緑色、北上高地は落葉広葉樹とカラマツで、どちらも緑色は薄い。牧草地を際だたせている背景の色の違いだ』『それとトーヒは年中黒いが、カラマツと広葉樹は冬になると落葉して枝だけになる』
宮脇先生もポット教授も「シュヴァルツ・ヴァルトはトーヒの森だ。土地本来の樹ではない。いつの日か、自然のしっぺ返しを受ける」と植林にトーヒを選んだことを非難するが、私は思った。『年間多くの観光客が訪れ、心身の疲れを和らげてくれる景観、それはトーヒ林の森林景観を後背にもっていなければ、成り立たない休養地ではないか』。
もう一つの違いを感じた。『住民の生活の息吹が見えることだ』『北上高地もシュヴァルツ・ヴァルトも、谷間の底や渓流にへばりついたように農家がある。それはどちらも同じだ』『ここは高原部でも農家が点在して、生活が見える』『北上高地は、麓(ふもと)に住居はあるが高原部には見られない』と思った。
考えがまとまったのは『トーヒの濃緑の額縁に入れた緑の牧草地は、カラマツと落葉広葉樹の淡い緑の額縁に入れた緑の牧草地よりも、アッピール効果が勝る』である。
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