2007年 1月 13日 (土) 

       

■ 〈英語ってどうなってんの?〉184 成田浩 作り手の側から見た英和辞典4

 いま、breakという語で考えてみましょう。この語は他動詞の場合だけでも、「あるものを二つ以上に割る」とか、「ばらばらにする」という[動きの経過]を表しているのです。「あるもの」と言ったってどの範囲まで含むのか、その範囲には「仕切り」がありません。意味自体には仕切りなどないのです。意味は連続体です。でも、そんな理屈を言っていたのでは紙の辞書も電子辞書も作られません。

  ではどうするのか。breakと共に現れるほかの語を頼りにbreakの特徴をできるだけたくさん集めていきます。

  同じbreakでも、ガラス窓だったら「割る、こわす」とか、ひもなら「引きちぎる」、電気だったら「切る」、会議なら「中断する」、水ぶくれなら「つぶす」、千円札なら「(小銭に)くずす」、平和なら「乱す」、沈黙とか伝統とか法律なら「破る」、習慣なら「やめる」、記録なら「破る、更新する」、秘密や計画なら「もらす」、馬なら「慣らす」など、まだまだあります。

  このように、日本語では後に来る語(目的語)によってさまざまな言いまわしになりますが、英語ではこれらすべてがbreakの守備範囲です(こわし方によっては、crush,shatter,smashなどの類義語はありますが)。このような意味の広がりは英米人の成人の頭の中で一種のネットワークを作っていると考えられています。これは、脳内辞書(mental lexicon)の中での意味連鎖といわれるものに近いと思われますが、その研究はまだまだ途上です。

  でも、語彙(ごい)が頭の中にアルファベット順や五十音順に入っていて、そこから取り出して使っているとは考えにくいです。意味はやはり、先に述べたように連続体なのです。日本語だって同じことで、「こわす」という語はかなり広い意味領域に及びますから。

  さて、現実の英和辞典といううつわの中にbreakの意味を有限個の語義として収容していかなければなりません。辞書では語義に1…、2…、3…のように番号をつけてくくります。でも、どういうくくり方にしましょうか。

(言語人文学会顧問)

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