■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉49 胡四王山(こしおうざん、176メートル)
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新花巻駅から1キロ南西に、木におおわれてモコモコした森、「胡四王山」がある。どことなく気品が漂うその山名には、お相撲さんの四股(しこ)名みたいな強さが感じられた。もし、朝の目覚めが憂うつだったら、「こしおうざ〜ん」と、拳を突きあげてみよう。ドスこいチカラが湧(わ)いてくる。
はじめ「胡四王山って?どこ」と首をかしげていた友人も、宮沢賢治記念館の建つ……という出足で納得。「だったら、山頂へは車でスイーッじゃないの?」ともいぶかしむ。
胡四王山はすでに観光化されたエリアである。とはいえ、賢治が経埋ムベキ山の二つ目にしるした聖地だ。「思索のウオーキング」にいそしんだ賢治のこころが今も密(ひそ)やかに息づいていると、私は信じている。
矢沢集落から直登する参道は、長くて急で息があがる。山腹には、賢治の童話の名がつけられた遊歩道が、網の目状にひろがり、どこがどの路(みち)やら現在地を失うほど入り組んでいた。点在する広場、池、展望台、大岩、東屋(あずまや)、トイレ。適度にきついアップダウンだって混ざりあう。
ちょっと横道にそれたり、駈(か)け登ったり下ったり、1時間でも2時間でも好きかってに歩き、足のむくまま気のむくままにコースを選ぶ。そのうち体がポカポカ汗ばむ−−この「自分流」山歩きのアレンジが、実にうれしいのだ。
凍(し)みわたる大地をつつむ銀色の天空。冬の胡四王山に暖かい雪が降る。四月になると、春の女神ヒメギフチョウも舞うという。この年どんな賢治ワールドが展開するのだろう。一歩踏みだすたびに、私は空想のかなたで遊ぶのだった。
その胡四王山の表参道へは、新花巻駅から県道286号線を1キロ西進したところで、新奥の細道の標柱を左折する。50メートル下ってすぐ釜石秋田自動車道をくぐり、釜石線の胡四王踏切を渡れば、もう胡四王山神社の鳥居の前に立っている。
ハシゴをたてかけたような美しい表参道を、注意ぶかく登る。その行きつく先に、おごそかで華麗な胡四王山神社拝殿が祀(まつ)られていた。古くは800年代、坂上田村麻呂の東征のおり、兜(かぶと)の中心に納めてあった薬師如来を安置し、神社としてまつったことがそもそもの始まりという。
流麗な曲線美を描く屋根。その重量を支える柱と柱。左右に配置された竜の彫り物や天蓋(てんがい)に、みごとな刀の刻みが見てとれた。八百万(やおよろず)の神々が住まう神座にふさわしく、手を合わせたくなるような精神性が備わっていた。
一礼して、私は足腰に言いふくめた。「さぁ、今年も山にドンドン登るわよ!」
(盛岡市在住、版画家) |
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