2007年 1月 4日 (木)
■ 画期的ベンチャー ザゼンソウ技術開発研究所がデータ群のカオス解析
氷点下の中でも約20度の温度を保ち続けるザゼンソウ。葉に囲まれた中心部分の「肉穂花序(にくすいかじょ)」が発熱器官
化学薬品商社の東北化学薬品(東康夫社長・本社弘前市)は岩手大学発ベンチャーのザゼンソウ技術開発研究所(盛岡市)と連携し、データ群のカオス性を判定する受託解析事業を始めた。ザゼンソウの発熱制御システムの研究過程で確立された解析技術で、医療データや経済動向の分析など、さまざまな分野での活用が期待できる。昨年末から本格的な受託営業に乗り出した。植物研究に端を発した知的財産を利用し、新しいビジネスに発展させたユニークな取り組み。産学連携の新たな可能性に挑戦する。
■カオス判定解析
カオス判定解析は、一見、無秩序に見えるデータから法則性を導き出す解析手法。1千点以上のデータがあればカオス判定できる。カオス性が確認できると高い精度で近未来の予測も可能だ。
例えば、ある人の心電図の時間ごとの推移を示すデータを分析し、カオス性が分かると異常が起きやすい時間帯や規則性などを見つけ出せる。解析結果をもとに診断や病気の予防に生かすことも考えられる。カオス理論を応用した近未来予測はまだ一般的ではないが、ほかにも気象や人口動態、株式変動、農産物の収穫量など、さまざまな分野に活用できるという。
ザゼンソウ技術開発研究所はザゼンソウの発熱制御システムの研究を中心になって進める岩手大農学部の伊藤菊一教授らが研究過程で得た知的財産を社会に還元しようと05年12月に設立した。岩手大学地域連携推進センター内のインキュベーションラボにオフィスを置く。スタッフは3人。これまで電気使用量など2件の解析を請け負った。
ザゼンソウの発熱制御システムの研究過程で確立されたカオス判定解析技術。コンピューター画面はカオス構造をビジュアル化したもの。複数の時系列データを比較し、データ間の相関を見いだすこともできる
研究所は解析技術は持っていてもビジネスラインに乗せるための営業ノウハウや有力な販路がない。そこで遺伝子発現データ解析などの事業で多くの大学や企業と取り引きのある東北化学薬品と提携。営業面での強化を図ることにした。解析事業の営業販売は東北化学薬品が手掛け、データ解析は研究所が行う。
■地方から発信するチャンス
東北化学薬品は本業の化学薬品の販売のほか、遺伝子発現データの受託解析など解析事業で業績を伸ばしている。カオス判定という解析事業のバリエーションが増えることは同社にとってもメリットがある。
解析事業を担当する同社の生命システム情報研究所の小岩弘之所長は「カオス判定解析は岩手でしかできない。地元大学で、しかも誰も注目しなかったような植物の地道な研究から生まれた知財を生かす事業。ぜひ支援したい。地方から発信するチャンス」と期待。
独創的な研究から生まれた地方発、産学連携ビジネスを軌道に乗せたいという。同社が得意とする医療分野での活用を中心に、膨大な実験データを抱える大学や研究機関、企業へ営業展開する考えだ。
カオス判定解析の1件あたりの価格はデータの近未来予測を含め最低28万円。初年度10件、500万円から1千万円の売り上げを目指す。
■ザゼンソウのメカニズム
データのカオス判定解析という独創的な解析事業で連携する東北化学薬品の小岩弘之所長(左)とザゼンソウ技術開発研究所の伊藤菊一岩手大農学部教授
ザゼンソウはサトイモ科の多年草。仏焔苞(ぶつえんほう)と呼ばれる葉に囲まれた肉穂花序(にくすいかじょ)は、氷点下の中でも外気温の変動にかかわらず約20度の体温を維持できる。肉穂花序は自らの体温変動をモニターしながら発熱する特性を持つ。
このメカニズムを解明する過程でザゼンソウの体温波形の分析に用いられたのが、カオス理論に基づく解析技術。ザゼンソウの温度制御がカオス理論に当てはまることが証明され、メカニズムをほぼ完全に再現できるアルゴリズム(算法)も開発された。このメカニズムを利用した工業製品の研究も進められている。
研究のかたわらベンチャー企業の運営に挑む伊藤教授は「大学には教育の役割もあるが、多くの税金を費やして行われた研究が論文発表だけで終わってしまってはいけないと思う。有益な知財であればどんどん社会に還元していくべき。大学で研究を続けながら社会に還元できる部分については研究所で事業化していきたい」と意欲を燃やす。
■カオス理論
予測できない複雑で不規則な現象を扱う理論。ある時点での状態が決まれば、その後の状態が原理的にすべて決まってしまうような運動法則であっても、初期のデータには必ず誤差がある。この誤差が運動の中で増幅されて、結果的に非常に複雑で不規則、不安定で予測不可能なものになるという。逆に言えば、不規則で複雑に見える現象の中にも単純な方程式で書き表すことができるような規則性が見出される可能性がある。物理や光学といった分野だけでなく、自然や生命、社会、経済などの複雑な現象にもこの理論が適用され成果を上げている。
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