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どんな語句を熟語として太字扱いにしましょうか。そもそも熟語とは何でしょう。
熟語にはおよそ二つの特徴があります。その一つは、ある語句の一つ一つの単語の基本的語義を組み合わせてみてもその語句の意味がつかめないものです。
たとえば、kick the bucketでは、kick(ける)とtheとbucket(バケツ)のそれぞれの語義を知っていてもだめです。kick the bucketの3語で「死ぬ、くたばる」という、くだけた会話などで使う言い方です。
これは熟語として太字扱いされます。「バケツをける」という文字通りの意味ではないからです。それにもう一つの特徴として、熟語になると、ある種の文法的操作を受けつけないという性質があります。The bucket was kicked by John. (受身)とか、kick the big bucket(余分な形容詞をつける)などにしてしまうと、熟語の意味は壊れてしまいます。
日本語で考えて見るとよく分かります。「わたしは学校に来た」は文字通りですが、「わたしは頭に来た」は違います。「頭には来られない」のです。これは「頭」と「〜に」と「来る」の、各語の意味の合計からは出てこない意味です。この3語全体で「腹がたつ」ということです。
待てよ。この「腹が立つ」も同じだぞ。臓器としての腹(胃か腸)は立ったり座ったりはしません(胃下垂という病気は文字通りですが)。さらに先のkick the bucketという熟語の場合と同じで、ある種の文法操作はできません。「ちょっと頭に来い」という命令文はだめですし、「彼ははげ頭に来た」のように、形容詞もつけないのが普通です。お笑いなどではこういう言語現象をうまく使っていることがあります。
その路線でいくと、前回のMy stomach rises at the sight of these dishes. では、「胃」と「上がる」の足し算方式からは、「吐き気がする」という意味にとれない可能性がありますが、英米人にとっては熟語でもなんでもないのです。日本の英語熟語辞典には熟語として載っています。語句によっては、日本人にとって熟語扱いのほうがよい場合もあります。
(言語人文学会顧問)
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