2007年 2月 5日 (月) 

       

■  〈賢治の歌〉658 望月善次 夜の空、ふとあらわれて

 よるのそら
  ふとあらはれて
  かなしきは
  とこやのみせのだんだらの棒
 
  〔現代語訳〕夜の空に急に現れて、かなしく思われるものは床屋の店の(看板の)段だらの棒です。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の冒頭歌の「541歌」。大正六年七月七日の夜から朝に友人たち(小菅健吉・河本義行・保坂嘉内)と行った「馬鹿旅行(嘉内)」に対応し、初期短編「秋田街道」や『アザリア』第二輯にも「夜のそらにふとあらはれて」八首(冒頭歌)として発表された。『アザリア』では、「夜のそらにふとあらはれてさびしきは、床屋のみせのだんだらの棒」であり、「秋田街道」では「私はふと空いっぱいの灰色はがねに大きな床屋のだんだら棒、あのオランダ伝来の葱の蕾の形をした店飾りを見る。これも随分たよりないことだ。」とある。賢治の幻視力を示す一首。その幻視力を際立たせるのに、散文的状況を対比させるべきか否かは極めて微妙だろう。

(岩手大学教授)


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