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ちかぢかと薩摩富士見ゆJR最南端の駅のホームに
海老原英夫
所属する短歌誌は日本縦断、北海道から沖縄、海外までの作品が並ぶ。宮崎県の海老原さんは大正5年生まれの元駅長さん、時々電話で91歳とは思えない張りのあるお声を聞かせてくださる方である。
「薩摩富士」は鹿児島の南端、東シナ海を臨む薩摩半島にある開聞岳(924メートル)。そのふもとを走るJR西大山駅が日本最南端駅(北緯31度11分)とのこと、私はこの辺りを何度時刻表の旅をしたかしれない。「山野駅日給八拾参錢の辞令を受く昭和はじめの不況のさなか」とも詠まれる氏の初任地はやはり鹿児島で、錢(せん)の単位の時代の若き国鉄マンを思いみる。
沖縄戦も経験され、「征かざれば平均寿命を超えてゐむ千三十六の遺影褪(あ)せたり」と、知覧(ちらん)の遺書に涙する作者。戦後もずっと機関車とともにあった氏が短歌を作り始めたのは64歳のときからという。短歌教室に奥様を車で送り迎えするうちにご自分でも作ってみたら上達が早く、20年後「雪笹」という美しい歌集を出版。東京で出版記念会の折に私は初めてお会いした。
さらに75歳で「ツマベニチョウ」に魅せられて、食樹のギョボクを植える運動を起こし、平成16年には「翔(と)べ!ツマベニチョウ」という10年間の記録誌を発行、マスコミにも大きく取り上げられた。
美しい蝶(ちょう)だ。羽を開くと9〜11センチ、羽の上端が橙(だいだい)色というか朱色のまさにツマベニで、雄は羽の下端を黒い斑点でふちどってある。さすが「南西諸島の舞姫」の異名もうなずける。
今、宮崎は揺れている。鳥インフルエンザに脅かされ、先ごろは知事選挙が日本中の視線を集めた。「世の中を茶化せし知事が世紀末茶番演じて消えてゆきたり」と詠まれたのは8年前。「今度は、そのまんま東知事を何と詠まれますか」と尋ねたら、「まさに、百年の孤独ですな」と笑われた。宮崎の幻の芋焼酎「百年の孤独」を味わいに、ぜひ、と誘われ、フェニックスの茂る日南海岸の旅を夢見ている。
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