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■1978年
ホテルは、道路をひとつ隔ててセントラルパークに面していた。ニューヨークに着いた翌朝、目覚めると佐伯氏がごそごそやっている。このツアーは、2人部屋でオリエンをすっぽかした僕たちは、相部屋になっていた。
「やぁ、おはようございます。起こしましたか」。佐伯氏は、穏やかな笑顔を向けた。
「いやぁ、そんなことないです。でも早いですね」。僕は、頭が少しフラフラしていた。なにせ、昨日ニューヨークに着いて、ワインを3本も空けたんだから。
「今からジョギングしますけど、一緒にどうですか」。なんと、ウエアにシューズまで履き替えている。何なんだ、このヒトは!
晴れ渡った朝のセントラルパークを佐伯氏は走り、僕はゆっくりと歩いた。たくさんではないけれど散歩やジョギングをしてる人がいる。すれ違うと「グッドモーニン」とあいさつを交わす。ベンチでリスにエサをやっている老婦人がいる。
「ワッタイム?」。すれ違いざまにたずねられて、どぎまぎして「エイト サーティ」と答える。ココは、人種なんか関係ないんだね。
その日の夕方、またエミリーと3人で食事に出かけた。佐伯氏の英語は、僕とどっこいどっこいで片言だけど、ぜんぜん臆(おく)することなくブロークンで話す。僕は日本語を英語に直して話すのでその分ぎこちなくもどかしい。エミリーは、多少日本語が分かる。1度日本に来ていて、そのとき佐伯氏の世話になったらしい。
「明日から、僕はビジネスね。エミリー、MR、キタジマの案内プリーズね」
マンハッタンは、碁盤の目のようにきっちりと区分けされている。縦がアベニューで横がストリート。その表示もいたるところにあるので、今自分がどこにいるのかすぐわかる。迷子になる心配がないので、日中僕は一人で街を歩き回った。夕方、エミリーは仕事が終わると、僕のリクエストの場所に案内してくれた。
ビル・エバンスは、ビレッジゲイトで観(み)た(聴いた)。入場料が5ドルくらいで、ドリンクが缶ビールで1ドルだった。エバンスの音はレコードと全く同じ音色で、そのことにとても感激してしまった。演奏が終わるとフラッと立ち上がってそのまま外に出て行った。誰もあまり騒ぎ立てず、大演奏家という感じではなかった。(この2、3年後にエバンスは亡くなった)
ビレッジゲイト同様、有名なジャズスポットのビレッジバンガードは、改装工事中で入れなかったのは残念だった。
ミュージカルは「コーラスライン」が超ロングランを記録していたが、僕は黒人を主人公にした「AIN’T MISBEHEAVENN」を観にいった。なんとそこでピアノの名手ハンク・ジョーンズが演奏していたので驚いてしまった。
でも、僕が一番気に入ったのは、ソーホーの安酒場で酒を飲みながらベースとデュオをしていたアル中気味のピアノ弾きのオッサンだった。
(ミュージシャン・株式会社ショップボックス相談役)著者ホームページhttp://www.smilecats.com/
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