2007年 2月 10日 (土) 

       

■ 〈賢治の歌〉663 望月善次 どもりつつ蒸留瓶は湯気を

 どもりつゝ
  蒸留瓶はゆげをはき
  ゆがみてうつる
  青ぞらと窓
 
  〔現代語訳〕どもりながら蒸留瓶は湯気を吐いて、それに歪(ゆが)んで映っている青ぞらと窓よ。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の六首目の「545歌」。『アザリア』第二輯(しゅう)では、「夜のそらにふとあらはれて」八首の六首目にあり、「蒼(あお)きそらゆがみてうつるフラスコのひたすらゆげをはきてあるかな」の形であった。なお、第四句から結句にかけては「ゆげの硝子(がらす)には/歪む青ぞら。」の形があり、「歌稿〔A〕」では「ゆげをはくゆげの硝子には歪む青ぞら」の形であった。左奥後方に賢治が写っていることで知られる『盛岡高等学校卒業アルバム』の「化学実験室風景」などを想定したような作品。「蒸留瓶」が湯気をはいている様子を「どもりつゝ」と、擬人的に示したところが一首の核心。その「蒸留瓶」に、「青空と窓」とが、歪んで映っているのである。

  (岩手大学教授)


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