2007年 2月 14日 (水) 

       

■  〈賢治の歌〉666 望月善次 柏原、炎絶えたるたいまつを

 柏ばら
  ほのほたえたるたいまつを
  ふたりかたみに
  吹きてありけり
 
  〔現代語訳〕柏(かしわ)の原で、炎が消えてしまった松明(たいまつ)を、二人で互いに吹いていたのでしたね。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の九首目の「547歌」。「歌稿〔A〕」では「柏原ほのほ絶えたるたいまつをひたすら吹けば火とはおもほえず」。「歌稿〔B〕」も、この多行化から出発している。保坂嘉内宛書簡〔164/大正九年五月〕「岩手さんよ かゞやく霧山岳の柏原、いたゞきの白い空に湧(わ)いて散った火花よ。……あの柏原の夜の中でたいまつがきえてしまひあなたとかはるがはる一生懸命にそのおき● ●を吹いた。」にも対応する一首。嘉内にも「松明が/たうたう消えて/われら二人/牧場の土手のうへに登れり」がある。賢治短歌を「文学作品」として読み、伝記的事実埋没させないのは、本評釈の一貫する留意点ではあるが、敢(あ)えて語りかけ口調の訳もつけた。
  (岩手大学教授)


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