2007年 3月 1日 (木) 

       

■  〈あのころぼくはバンドマンだった〉40 北島貞紀 ゲーマンの行方

 ■ 1979年

  バンドマンは、総じてワガママだ。社会の組織や常識と無縁の世界で生きているから、急に方向転換したり、気に入らないとプイっとそのハコをやめて次に移ってしまう。また、それがバンドの常識で、次々と仕事もあった。

  ベースのムクムクも、絵に描いたようなバンドマンで、僕と同じころにバンドの世界に入ったが、在籍したバンドの数は、僕の倍を超えていた。

  「北ヤン、頼みがあるんや」ある日、ムクムクから電話があった。

  「なんや」一瞬、嫌な予感がした。この世界で、頼みといったら借金のことしかない。

  「ネーカ(金)、貸して欲しいんや」

  「…なんぼや」

  「ゲーマン(5万)ほど、頼むワ」

  「…うー、わかった」

  チェージュウ(10万)と、言われたら「そりゃ無理や」と即決で断れたが、ゲーマン(5万)は微妙だった。今までの長い付き合いで、ムクムクが僕に頭を下げたことはない。もちろん金の貸し借りもないのだが、あの誇り高き男が頭を下げるのだからしょうがないか!

  約束の日、ごつい体に、相変わらず肩を超える長髪を揺らしながらムクムクがアパートに来た。そして、ムクムクと同じ体型をして、ムクムクより一回り小作りの女も来た。

  「今度な、こいつと一緒に住むことになったんや。けど、アパートの敷金が足れへんのや」

  「わかったわ、ゲーマンだな」

  「こいつな、ミナミでセンセ(先生)してんね」

  先生といっても、学校の先生ではない。客の歌伴をするソロのピアノやエレクトーン奏者を業界ではこう呼ぶ。

  ムクムクの隣で、小ムクムクは、ちょっと足らんの違うかと思うくらい、うれしそうにニコニコしながらうなずく。

  「毎月、チェーマン(1万)ずつ返すさかいに」

  ムクムクは、いつものように自分の話だけをして帰っていった。連れ合いの名前も聞いていない。

  まぁ、貸した金は返ってこないだろうと半分、あきらめた。

  意に反して、ムクムクは律儀に約束を守った。1回だけ、もらえない月があったが、都合半年で全額返してもらった。ただ返し方に問題があった。

  僕は5万円、貯金を下ろして貸したのだが、ムクムクは1万ずつ持ってくるものだから、その金で2人で飲みに行く。その繰り返しで、最終的に1円も貯金通帳に戻ることはなかったのだ。

  (ミュージシャン・株式会社ショップボックス相談役)著者ホームページhttp://www.smilecats.com/


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