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■ 1979年
バンドマンは、総じてワガママだ。社会の組織や常識と無縁の世界で生きているから、急に方向転換したり、気に入らないとプイっとそのハコをやめて次に移ってしまう。また、それがバンドの常識で、次々と仕事もあった。
ベースのムクムクも、絵に描いたようなバンドマンで、僕と同じころにバンドの世界に入ったが、在籍したバンドの数は、僕の倍を超えていた。
「北ヤン、頼みがあるんや」ある日、ムクムクから電話があった。
「なんや」一瞬、嫌な予感がした。この世界で、頼みといったら借金のことしかない。
「ネーカ(金)、貸して欲しいんや」
「…なんぼや」
「ゲーマン(5万)ほど、頼むワ」
「…うー、わかった」
チェージュウ(10万)と、言われたら「そりゃ無理や」と即決で断れたが、ゲーマン(5万)は微妙だった。今までの長い付き合いで、ムクムクが僕に頭を下げたことはない。もちろん金の貸し借りもないのだが、あの誇り高き男が頭を下げるのだからしょうがないか!
約束の日、ごつい体に、相変わらず肩を超える長髪を揺らしながらムクムクがアパートに来た。そして、ムクムクと同じ体型をして、ムクムクより一回り小作りの女も来た。
「今度な、こいつと一緒に住むことになったんや。けど、アパートの敷金が足れへんのや」
「わかったわ、ゲーマンだな」
「こいつな、ミナミでセンセ(先生)してんね」
先生といっても、学校の先生ではない。客の歌伴をするソロのピアノやエレクトーン奏者を業界ではこう呼ぶ。
ムクムクの隣で、小ムクムクは、ちょっと足らんの違うかと思うくらい、うれしそうにニコニコしながらうなずく。
「毎月、チェーマン(1万)ずつ返すさかいに」
ムクムクは、いつものように自分の話だけをして帰っていった。連れ合いの名前も聞いていない。
まぁ、貸した金は返ってこないだろうと半分、あきらめた。
意に反して、ムクムクは律儀に約束を守った。1回だけ、もらえない月があったが、都合半年で全額返してもらった。ただ返し方に問題があった。
僕は5万円、貯金を下ろして貸したのだが、ムクムクは1万ずつ持ってくるものだから、その金で2人で飲みに行く。その繰り返しで、最終的に1円も貯金通帳に戻ることはなかったのだ。
(ミュージシャン・株式会社ショップボックス相談役)著者ホームページhttp://www.smilecats.com/
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