2007年 3月 4日 (日) 

       

■ 〈雑誌創刊号の話〉296 成ケ澤栄治 「染織の美」

 アメリカで、浮世絵の版木が見つかったなどという報道を聞くと、かつて「見返り物資」と称して、GHQが持って行ったものなのだろう、と思うのです。

  昭和20年の敗戦で外国、特にアメリカから大量の援助物資が届きました。時の米軍総司令部マピーン・バータ大尉は「物資援助に見返り出来るものは、日本の美術及び工芸品であろう」と、日本政府に示唆しました。彼の本職は商業デザイナーでした。

  こうして脱脂粉乳などのお返しとして、京都の茶道具や友禅・南部の鉄瓶などが海を渡りました。

  それら見返り物資を代表する、染め物と織り物の専門誌『染織の美』(A4判・160ページ)が、京都書院から創刊されたのは、昭和54年10月でした。

  洗練された編集と上質の紙に高度な印刷技術の本誌創刊号は、資料としての価値が高いと思います。

  連載「天然染料入門」その1は「紅花」ですが、見本として添付された「朱華(はねず)うこん・べにばな」の色彩が見事です。

  創刊特集「古典美の探求」は「辻が花」という文様染めです。「花葉団文様裂」から「竹文様裂」まで70を越える文様について、40ページにわたってカラーで掲載し、切畑健京都国立博物館主事が解説しますが、専門的知識がないと理解が困難です。しかし、文様の伝統的な構成美には素人でも感動を覚えるのです。

  中村渓男「美人画と衣裳」は、この年4月郵政省が切手趣味週間に発売した「懐月堂立美人図」を取り上げます。大量生産の版画に対し、肉筆で美人画を描く江戸中期の作家集団が、懐月堂でした。当時の時代風俗を克明に追及していることは、記録的意味と服飾史上でも重要な価値があるといわれます。

  「作家登場」は、人間国宝友禅作家森口華弘です。「友禅を描くことは日本画と同じではない、花一つ描くにしても無駄を省いて、要点をぴしっと描く、文様を描くことはものの整理だ」と語ります。

  「思い出の人々」は、絞作家片野彦。「創作手帖」は、友禅染・型染・絵更紗・アップリケ・手織りと、それぞれの作家が作品の製作工程を実演します。

  染め物といえば、戦時中「白い夏着はB29から見えるから染めよ」と命令が出ました。何を間違ったか、おふくろが染めたのは「赤紫色」でした。小国民の私は御国のためと我慢、着用しました。

(毎週日曜日掲載)

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