2007年 3月 8日 (木) 

       

■  〈賢治の歌〉688 望月善次 夕つつもあはあは光り

 夕つつも
  あはあはひかりそめにけり
  あした越ゆべき
  峠のほとり。
 
  〔現代語訳〕宵の明星も、淡々と光り始めました。明日越える予定の峠の近くに。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の三十首目の「568歌」。「歌稿〔A〕」の第二句は「あは〓〓」。「夕つつ(ママ)」は「夕星・長庚(ゆうずつ/ゆうつず)」で、宵の明星のこと。「ほとり(辺り)」は、近くのこと。伝記的には、「蕩児(とうじ)の群」の「酒の旅」から、一人離れて、「小国峠(立丸峠?)」を経て、遠野に至るまでの行程に相当することになるが、「あした越ゆべき」をどの場所で思ったのかは今のところ特定できていない。いずれにしても、見たままをそのままに表現しようとした話者がいるし、賢治好みの夕べの星という場面設定もあるのだが、それが「短歌作品」として自立するところにまで達しているかとなると話はおのずから別のものとなるであろう。
(岩手大学教授)

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