あかつきの
峠の霧にほそぼそと
青きトマトのにほひながるる
〔現代語訳〕暁の峠の霧に、細々と青いトマトのような匂(にお)いが流れています。
〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の三十首一目の「570歌」。「ほそぼそと」は、「歌稿〔A〕」では「ほそ〓〓と」と繰り返し符号が用いられていた。また、結句は、当初「ながれる。」の形から、抽出歌の形となっている。一連の作品として読むならば、例えば「568歌」で「あした越ゆべき峠」と言った話者は、その「あした」の「あかつきの峠」にいることになる。さて、「青きトマトのにほひ」であるが、森荘已池の「明治橋のランカンから北上川に飛びこんで泳いだ」想像〔「接待にトマト山盛り」、『ふれあいの人々 宮澤賢治』〕を挙げるまでもなく、当時トマトは珍野菜であったから、このトマトは実際に見ているトマトではなく、想像上のそれだと読んだ。
(岩手大学教授) |