2007年 3月 10日 (土) 

       

■ 〈賢治の歌〉690 望月善次 あかつきの峠の霧に

 あかつきの
  峠の霧にほそぼそと
  青きトマトのにほひながるる
 
  〔現代語訳〕暁の峠の霧に、細々と青いトマトのような匂(にお)いが流れています。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の三十首一目の「570歌」。「ほそぼそと」は、「歌稿〔A〕」では「ほそ〓〓と」と繰り返し符号が用いられていた。また、結句は、当初「ながれる。」の形から、抽出歌の形となっている。一連の作品として読むならば、例えば「568歌」で「あした越ゆべき峠」と言った話者は、その「あした」の「あかつきの峠」にいることになる。さて、「青きトマトのにほひ」であるが、森荘已池の「明治橋のランカンから北上川に飛びこんで泳いだ」想像〔「接待にトマト山盛り」、『ふれあいの人々 宮澤賢治』〕を挙げるまでもなく、当時トマトは珍野菜であったから、このトマトは実際に見ているトマトではなく、想像上のそれだと読んだ。
  (岩手大学教授)

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