この度は
薄明穹につらなりて
高倉山の黒きたかぶり。
〔現代語訳〕今回は、薄明穹(きゅう)に続いている、高倉山の黒い昂(たかぶ)りよ。
〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の五十六首目の「590歌」。「歌稿〔A〕」とも行変え、文末の句点以外に変わらない。「薄明穹(はくめいきゅう)」は、「薄明」の「穹ソラ(穴=横穴)+(弓=中高)=横穴式住居の天井」。「薄明」は、日の出前や日没後に見られる空の薄い光で、原因は、「地平線下にある太陽の光が上層大気で散乱されて生ずる。」〔『マイペディア』〕。「賢治の最も好んだ語」〔『宮澤賢治語彙辞典』〕であることは再三触れた。時期的に重なる短編「泉ある家」にも、「山の上では薄明穹の戴(いただ)きが水色に光つた」とある。抽出歌の風景は、「夕方」のもので、いつも魅力的な「高倉山」の夕闇が、今回は、「薄明穹」との関係で特別だとした作品。
(岩手大学特任教授)
|