2007年 4月 6日 (金) 

       

■  〈賢治の歌〉716 望月善次 月光の少し暗めば

 月光の
  すこし暗めば
  こゝろ急く硫黄のにほひ
  みちにこめたり。
 
  〔現代語訳〕月の光が少し暗くなったので、気ぜわしく感じられる硫黄の臭いが道にいっぱいになりました。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の五十七首目の「591歌」。「こころ急く」は、「こころ」に「急いでいらだつ」意味の「せく(急く)」を付けて成った語。抽出歌は、嗅覚(きゅうかく)を自覚する契機について記したもの。客観的に言えば、(おそらく硫黄分を含んだ温泉から出る)道いっぱいに満ちている「硫黄のにほひ」は、多くの人が感ずるところであるが、その契機を「月光の/すこし暗めば」と「月の明かりが暗くなったので」としているところが、作品の手間。賢治的な感覚が前面に出ている作品ともなっている。「風と偏倚」〔「風景とオルゴール」、『春と修羅』〕にも、「月あかりがこんなにみちにふると/まへにはよく硫黄のにほひがのぼつたのだが」の類似表現がある。
  (岩手大学教授)

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