2007年 4月 14日 (土) 

       

■ 〈阿部陽子の里山スケッチ〉55 石上山(いしがみやま、1038メートル)

     
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  尾根に突きだした岩肌が遠めにも分かる。あの頂を踏んだのち、無事に下りおおせねばならぬ、と私は心した。靴ひもをギュッと結ぶ。身支度をしながら、だんだん厳かな気持ちになっていく。

  遠野三山の一つ石上山は、上を神に転じて「石神山」と表現され、早池峰山や六角牛山とともに、聖なる信仰の山域であった。忘我の境地でなければ急峻な尾根路はわたれない。修験の山らしく、今でも異彩を放っている。

  その異界には、鳥居をくぐり山谷川牧場の畑地から、牧歌的に歩いていく。姥石まで5分。そののちスギの造林地が20分続き、老スギと岩に小沢が合体したような水場につく。上部に、籠堂小屋とミニ祠(ほこら)のある馬止めだ。左手の山路コースのほか、沢伝いに登る不動岩コースに分かれるが、ほどなく合流する。

  刀納めの岩あたりからはさらに痩(や)せ尾根となり、すれ違いもままならないほどスリリングだ。見上げると、猿飛サスケのいでたちで、おじさんが一人、動くチャンスをうかがっている。

  「イヤー、今日の天気は最高だ。鳥海山がこれほどくっきり見えたのは初めてだ」

  言い残したかとおもいきや、身のこなしも軽くヒョイヒョイ下っていく。

  これから登るこっちは、身をよじり垂直な岩に張りつく。なんとも情けない格好だが仕方ない。気を抜けば今すぐバリッと剥(は)がされそうだった。

  中之堂の前で小休止。さらに上部は鎖場やハシゴの緊張した登りが続く。兜(かぶと)岩を登りきって唯我独尊(ゆいがどくそん)、めでたくも、天狗(てんぐ)太郎の気分で私は山頂に立った。サスケおじさんの言葉どおり、まれに見る大ロケーションだ。

  石上山の一等三角点はさらに南へ15分、ササの尾根の先にある。南の鳥海山、室根山、物見山(種山ケ原)、西に和賀岳、秋田駒ケ岳、そして北の東根山、岩手山、早池峰山、東へ白見山、五葉山と連なり、一等三角点の設置された山は、この石上山を含め、11数えられた。

  さぁー、落ち着いて帰ろう。下るとなれば怖くて腰が引け、手足もすくむ。「往(い)きはよいよい、帰りは怖い」、もうスタイルを気にしてはいられない。

  石上山って、女人禁制だったっけ?ふと邪念がよぎった瞬間、私は滑って「キャー」。……た、た、確かに、かん高い声はご法度だ。静かに注意して下ろう。
 
  盛岡から遠野市綾織町へは、国道396を南西に70キロある。南部曲がり屋・千葉家を左にやりすごし、綾織郵便局を左折してから4キロで石上山登山口につく。道をはさみ、鳥居と駐車スペースがあるのですぐ分かる。

(版画家、盛岡市在住)

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