2007年 5月 2日 (水) 

       

■  〈賢治の歌〉740 望月善次 夜明けより泣きそびれたる

 夜あけより
  なきそびれたる山のはに
  しらくもよどみ
  羽虫めぐれり。
 
  〔現代語訳〕夜明けから、泣きそこなった山の端に、白雲が澱(よど)み、羽虫がめぐっています。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の七十九首目の「612歌」。「歌稿〔A〕」から行変え、句点以外の変更はない。「そびれる」は、動詞の連用形に付けて「機会を失ってなしとげ得ない。しそこなう。」を表す語〔『広辞苑』〕。賢治らしいのは、その「そびれ」を含む第二句の「なきそびれたる山のは(端)」で、「なきそびれたるVS山のは」は、中村明の言う「結合比喩(ゆ)」にして、所謂(いわゆる)「擬人法」。しかも、「なきそびれたる山」は内容的にも面白い。この「賢治らしい山のは」に、澱む「しらくも」と「翅(はね)のある小昆虫の俗称」〔『広辞苑』〕である「羽虫」が置かれ、(「賢治は、単に見たままを歌ったのだ」とする意見もあろうが)「賢治的な一首」となったのである。
  (岩手大学特任教授)

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