岩手やま
あらたに置けるしらゆきは
星のあかりに
うすびかるかも。
〔現代語訳〕ああ岩手山よ。新しく置いた白雪は、(明け方の)星の明かりに薄く光っていますねぇ。
〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の八十四首目の「617歌」。「歌稿〔A〕」とは、行変え、句点以外の変更はない。「616歌」の際に触れたように、初期短編「柳沢」関連歌三首の二首めにもなる。「柳沢」の、雨のためいったん引き返した後の翌朝の描写である「そうら、裾(すそ)野と山が開けたぞ。はてな、山のてつぺんが何だか白光するやうだ。何か非常にもの凄(すご)い。雲かもしれない。おい、たいまつを一寸(ちょっと)うしろへかくしてみろ。ホウ、雪だ、雪だ。雪だよ。雪が降つたのだ。」に対応する作品だとできよう。しかし、短歌の方は、いかにも平凡に纏(まと)まっていて、「柳沢」の興奮に遠く及ばず、「あらたに置ける」の意味も分かりにくい。賢治短歌低評価説に加担する一首である。
(岩手大学特任教授)
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