2007年 5月 10日 (木) 

       

■  〈賢治の歌〉746 望月善次 ぬれ帰りひらすら火燃す

 ぬれ帰り
  ひたすら火燃すそのひまに
  はがねのそらは はやあけそめぬ。
 
  〔現代語訳〕(雨のため)濡れて(宿坊に)帰って、(体を温め、着ているものなどを乾かそうと)一心に火を燃やしているその間に、鋼(色)の空は、早くも明け始めたものです。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の八十五首目の「618歌」。「歌稿〔A〕」から、行変え、句点以外の変更はない。『新校本宮澤賢治全集(第一巻)』のいう初期短編「柳沢」関連歌三首のうちの三首め作品。その「柳沢」や弟清六の「麓(ふもと)の若駒たち」(一九六二)によれば、伝記的には、大正六年十月の岩手山登山に対応する。賢治は、弟たち四人と宿に泊まった後、午前二時過ぎに出発するのだが雨のため引き返し、翌朝再び登山する。その濡れた体や衣服を乾かしている部分に相当することになる。伝記的事実を絶対とするならば「617歌」の後に来なければならないともいえる。同時に、一首の「ひまに〜はやあけそめぬ」が示す「回想的視点」にも留意せねばなるまい。
(岩手大学特任教授)

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