■ 〈あのころぼくはバンドマンだった〉50 北島貞紀 ウレセンバンド結成
|
■ 1981年
「センセイ、相談があるんですが」
3月ほど前から、僕の生徒になったトシ君が、レッスンの終わりごろに遠慮がちに言った。
「えぇよ、次の時間まであいてるから」
「ここではなんですので、どっかでコーヒーでもどうです?」
確かどこぞの大学の4回生のトシ君は、ポップスバンドのボーカリストで、ボイストレーニングと歌の領域を広げたいといってビッグジムにやってきた。
場所を変えて、席につくと話をきりだした。
「今度、新しいバンドを結成します。もうメンバーは決まってます」
「ほーう、どんなバンドや」
「ウレセン(売れ線)を狙ってます。女の子とツインボーカルで、バンドとして売ります。わたし、じき卒業ですが、これにかけるつもりです」
「それで、相談っていうのは?」
「センセイに、このバンドに入ってもらいたいんです!」
結成前から、いくつかのプロダクションに声をかけて、仕事もいくつか入ってきているらしい。トシ君は、現在も学園祭等で仕事をこなしていて、まったくの素人ではない。だからこの新バンドを結成するという意味は生半可ではない。
「センセイのギャラは保証します」
そうトシ君は言うが、それはおそらく無理だろう。1カ月、2カ月は可能だろうが、そう簡単にバンドが売れるものではない。ライブを重ね続けてチャンスを待つ。そのためには夜のハコをやめなければならない。ライブのチャージバック(ギャラ)など高が知れている。たとえ全額を僕一人がもらっても、今の仕事のギャラに追いつかないだろう。
即断も即決もできなかった。とりあえずメンバーに会って、それぞれの力量や将来性を見ることにした。今度の日曜日に、そのメンバーでミニライブをやるのでそれを見に行くことになった。
会場は、立見で100人入ればいっぱいという広さで、7割方の入りだった。ただその客が高校生から20歳前後に限られていて、僕は完全に場違いというか、保護者のようなものだった。
ビートの合わないパンクバンドが2曲やると、女の子のフォークデュオが出て、いよいよトシ君のバンドだった。今日のメーンバンドらしく、楽器のセットが始まると、会場の雰囲気が盛り上がってきた。もうそこそこの人気はあるらしい。
ギター、ベース、ドラム、キーボードをバックにトシ君が山下達郎のバラードを歌った。高音の音程がちょっとふらついたが、まずまず聴かせる、バックもそつなくこなしている。
「ワン、ツー、スリー、フォー」トシ君のカウントに続いて、ベースがチョッパーで入りドラムがリズムを刻みだした。トシ君の横に立っていた白のフレアスカートに薄いピンクのセーターの女の子がマイクを持った。整った顔立ちに、あどけなさが残っていた。
(ミュージシャン・株式会社ショップボックス相談役)著者ホームページhttp://www.smilecats.com/ |
|
|
|
|
|
|