5月に入ると、アジアゴ高原は若葉萌(も)える初夏の日差し。町の周辺に広がる、なだらかな牧草地は、一面タンポポの海です。
わが家から徒歩3分の裏山一帯も黄一色。毎日のように、わが家の娘たちも花輪を編んだり、つかの間のお花畑を楽しんでいます。
5月も終わりになると、紫や水色等、色とりどりの花が咲き乱れ、草も子どもの背丈ほどに伸び、干し草作りが始まります。
数週間前までの牧草地は、タンポポの若芽を摘む人々でにぎわいました。10センチほどの若草を、真っ白い根から上手に切り取り、大きなかごいっぱい抱えて帰るのです。
若芽は、茹(ゆ)でた後、オリーブ油で炒(いた)めた肉料理の付け合わせにします。少し苦味がありますが、独特の風味は春の味。日本でも、フキノトウなどのほろ苦さが「春」を感じさせるのだから不思議です。
タンポポは、旬の味というばかりでなく、「苦菜」として、カトリックの世界では特別な存在です。「十戒」で知られる旧約聖書のモーゼは、神のお告げにより、当時エジプトで奴隷となっていたユダヤ人を、安住の地カナンに導きました。その「出エジプト」を祝う祭りで食べたのがタンポポといわれます。
以来、磔刑(たっけい)の図にも、しばしば描かれ、キリスト受難の意味を持つようになったのです。
本来ヨーロッパでは「黄」は、金と同様に太陽の色。キリストの父ヨゼフも黄色の外套(がいとう)をまとっています。また、嫉妬(しっと)や堕落、地獄の象徴も黄色だというから驚きです。
薄汚れた黄色い服を着るユダは、キリストの裏切り者です。中世には、異教徒は黄色い服を強要され、ペスト流行時には、黄色い十字架が伝染地帯を示しました。
歴史から見る「光」の表と裏。タンポポが、ほろ苦いのも、そのためでしょうか。
摘み取ったタンポポは、砂糖に漬け込まれた後、「黄金蜂蜜(はちみつ)」の品名で、もうすぐアジアゴの店頭に並びます。
(隔週火曜日掲載)
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