白樺に
かなしみは湧きうつり行く
つめたき風のシグナルばしら。
〔現代語訳〕白樺に悲しみが湧(わ)いて、その悲しみが移って行くのです。(そして白樺は)冷たい風の中でシグナルの柱となって立っているのです。
〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の八十八首目の「623歌」。「歌稿〔A〕」から、行変え、句点以外の変更はない。賢治的要素に満ちている一首。まずは、「白樺(シラカバ・シラカンバ)」である。カバノキ科の落葉高木が賢治好みの樹木の一つであることは繰り返す必要があるまい。そこに「かなしみ」が湧くのである。もちろん、樹木が悲しみを湧かせることはないから、「かなしみ」は話者の思いである。その悲しみの「うつり行く」さまは、抽出歌では具体的に述べられていないのだが、可能性の一つとして、他の白樺の樹(き)に移って行き、その一つ一つが、悲しみに染められるのだとした「現代語訳」をつけておいた。「シグナルばしら」は、いわばその仕上げである。
(岩手大学特任教授)
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