2007年 6月 1日 (金) 

       

■  〈賢治の歌〉768 望月善次 ようやくに峰に来たれば

 やうやくに
  峯にきたればむら雲の
  ながれを早みめぐむくろもじ。
 
  〔現代語訳〕漸(ようや)く峯(みね)に来てみると群がり沸き立っている雲(叢雲=むらくも)の流れが早いので、芽を出しているクロモジなのです。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の百五首目の「639歌」。第四句は、「歌稿〔A〕」では、「(ながれを)はやみ」と「早み」の漢字部分を開いていた。「ながれを早み」は、ご存じの「を〜み」の形。あまり得意ではない文法的説明を「み」の側から説明すれば、形容詞や形容詞と同様に活用する助動詞の語幹について、多く間投詞「を」を伴って、理由や原因を表す、などとなろうか。「クロモジ」はクスノキ科の落葉低木。爪楊枝(つまようじ)の原料となることはあまりにも有名だが、折ると良い香りがすることでも知られる。賢治には、「くろもぢ」とする誤用も見られるという。〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕クロモジが芽を吹くのはもちろん雲の流れのためではないからこそ詩が成立する。
(岩手大学特任教授)

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