2007年 6月 2日 (土) 

       

■  〈賢治の歌〉769 望月善次 険しくも刻む心の

けはしくも
刻むこゝろのみねみねに
かほりわたせる ほう(ママ)の花かも
 
  〔現代語訳〕本当に険しく刻む心の幾つもの峯(みね)に、一面に薫る朴(ほお)の花なのですねぇ。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の百六首目の「640歌」。「歌稿〔A〕」では、「險しくも刻むこゝろの峯々にうすびかり咲くひきざくらかも」の形であり、「歌稿〔B〕」においても、抹消された「うすびかり咲く ひきざくらかも」のほか「いまさきわたる マグノリアかも。」「かほりわたせる ほうの花かも」の形があった。「ほう」は賢治の誤用。「木蓮、辛夷(ヒキザクラ)、厚朴、泰山木」の総称である「マグノリア」も出てきていて、抽出歌の「ほう」が厳密に何の花を直接のモデルとしていたかは定め難いところもある。が、「かほりわたせる」場所が具体的な場所ではなく、抽象化された「こゝろのみねみね」であるので、この揺れも許容されることになろう。
(岩手大学特任教授)

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