2007年 6月 4日 (月) 

       

■  〈賢治の歌〉771 望月善次 夜は明けて馬はほのぼの

 夜はあけて
  馬はほのぼの汗したり
  うす青ぞらの電柱の下。
 
  〔現代語訳〕夜は明けて、馬は(朝がほのぼのと明けるように)ほんのりと汗をしています。薄い青空のもとの電柱のところで。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の百七首目の「642歌」。「歌稿〔A〕」では、「ほのぼの」が「ほの〓〓」と繰り返し符号を用いていた。詳しくは明日論じることになる「643歌」なども参考にすると、作品の契機になっているのは、「一晩中硫黄を運んで来た馬」であったようである。「ほのぼの(仄々)」は、「仄(ほの)か(光・色・音・様子などが、うっすらとわずかに現れるさま。その背後に、大きな厚い、濃い、確かなものの存在が感じられる場合に言う〔『岩波古語辞典』〕)」に由来する語で、「夜明け」を示す「ほのぼのあけ」の語もある。が、注目点は、「夜明け」を示す「ほのぼの」を「汗の様子」に用いているズラシで、このズラシこそが賢治文学の根幹。
  (岩手大学特任教授)


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