2007年 6月 5日 (火) 

       

■  〈賢治の歌〉772 望月善次 夜を込めてイオウ積みこし

 夜をこめて
  硫黄つみこし馬はいま
  あさひにふかく
  ものをおもへり。
 
  〔現代語訳〕夜の間中、硫黄を積んで来た馬は、今、朝日(の中)に深くものを思っています。

  〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の百九首目の「643歌」。第四句は、「歌稿〔A〕」の表記は、「朝日に」。また、斜め下には、「棒の硫黄は/いま鳴り出でぬ/のひゞいれる音」などの書き込みがある。こうした書き入れなどにも見るように、(既に「642歌」の「評釈」においても触れたが)馬は、夜を通して硫黄を運んで来た馬を想定できよう。(硫黄は、石油精製の副産物として採れる現在と違って、例えば、花巻近郊の鉛温泉北側の鶯沢硫黄鉱山のように専門の硫黄鉱山があった〔『新宮澤賢治語彙辞典』〕)。「あさひ」の中の馬を「ものをおもへり」としているが、もちろん馬が実際に「ものを思っているか」は不明で、この結合比喩(ゆ)は話者の思いである。
  (岩手大学特任教授)


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