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これはこれ
夜の間にたれかたびだちの
かばんに入れし薄荷糖なり。
〔現代語訳〕これは、これは、夜の間に、誰かが、旅立ちの鞄(かばん)に入れた薄荷糖(はっかとう)なのです。
〔評釈〕「大正六年七月より」〔「歌稿〔B〕」〕百十一首中の百十首目の「644歌」。「歌稿〔A〕」などとの揺れはない。佐々木又治宛書簡〔書簡54(同年四月十八日)〕には、握り飯を出そうとして背嚢(はいのう)に手を入れたら、薄荷糖があって、「コレハ私ノ父ガ入レテオイタノデス。」と記している。続いて「私ハ後ニ兵隊ニデモ行ッテ戦ニデモ出タラコンナ事ヲ思ヒ出スダラウト思ヒマス。」とあるから、これが賢治にとっても小さくない体験であったことが分かる。「641歌」の初句にも通う「これはこれ」のややおどけた口調や、入れた対象も「たれか」としているが、その中にかえって愛情が見え隠れする。
(岩手大学特任教授)
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